「こんにちはぁーっ」

「加世。よう来たでおじゃる。ゆるりとしてゆけ」

「は、はいっ 相変わらずお綺麗でいらしゃいますねぇ」

「何がぞよ?」

「瑠璃姫様に決まってるじゃないですか!あれ、薬売りさんは・・・」

「あやつは今日もモノノ怪退治じゃろうて・・・今宵は帰って来ぬ」

「ええ!?じゃぁ今夜は瑠璃姫様だけですか?」

「そうなるでおじゃるな」

まるで今気づいたようにすんなりと言ってのけた。

「でででもっこんなお屋敷に女一人にするなんて・・・ちょっと酷くないですか」

「そうかえ?いつものことで、もう慣れてしまったでおじゃる」

「い、いつもなんですか・・・」

「ふふ、あやつを留めらるる者なぞおらぬよ。自由気儘であるのがあやつの生き様」

「だけど〜・・・寂しくないんですか」

「寂しい?」

「だって好きな人とは普通、いつも一緒に居たいって思うものでしょう?」

「・・・」

あやつと片時も離れぬ?そんな願い叶ふわけがないでおじゃる。

「よいのじゃ。これで」

自分に言い聞かせるかのようだった。

「あ・・・すみませんっ何か立ち入っちゃったこと聞いてしまって・・・」

「構わぬ。もっと話してたもれ。加世の話はおかしきものぞ」

「ありがとございます・・・(照) あ。えっと、じゃぁ何で2人は恋仲になったんですか?」

「知りたいかえ?」

「はい、是非っ」

「そうじゃのぉ・・・あれは鶯が梅にとまる麗らかな昼下がりであった・・・」

瑠璃姫は懐かしむように瞼を閉じて話し出した。



「今日は随分と気持ちの好き日和でおじゃるな」

縁側で沈香の馥郁たる馨りと春風の薫りで幸福な思いに満たされていた。

「・・・お久しゅう御座います、ね。瑠璃姫さん」

「!・・・いつの間に・・・」

ふと面を上げればいつかに見た薬売りの顔があった。

「なぁに、近くを寄ったんでね。様子を見に来たまでですよ」

「わらわは嘘偽りは好かぬえ。真なる目的は何ぞや」

「っくく・・・ばれちまいましたか。実は一晩宿を、お願い、したく」

「何じゃ宿かえ。またモノノ怪でも斬りに来たのかと」

「そうやすやすと見つかるものじゃぁありませんよ」

「よいぞよ。今宵は泊まってゆけ。丁度香木も好く匂ってきたところぞよ」

「嗚呼。どうりでいい匂いがすると思った訳、ですねぇ・・・」

言うて男は口元を妖艶に歪ませると、その唇をわらわの唇へと流すようにあてがった。

「・・・く、す・・・」

「おやおや。此方からもいい匂いがすると思ったら・・・すみませんねぇ」

「そなたは阿呆か」

「随分と雅な花の蜜かと・・・阿呆は言い過ぎじゃぁありませんかね」

「もうよい。怒る気もせぬ。そなたと話しておると」

「それはもっとしてたもれ≠チてことですかい?」

「水でもかけられたいのか≠ニいうことでおじゃる」

「っくく、これは手厳しい」

「わらわをどうしたいのでおじゃるか、そなたは」

「あわよくば。俺の思い通りにしたいです、ねぇ」

「もうよい。何だか此方まで阿呆になりそうじゃ」

「ほぉ・・・それはどういう意味合いで?」

「好きにせよ≠ニいうことでおじゃる」

「・・・ほぉ」

そして最後にしかと分かったのはあの微笑で顔を近づけ、わらわの唇をさらうあの舌触りだけであった。




「それで、それで!?」

「それからは何故かあやつはこの屋敷に入り浸るようになったのじゃ。思えばあれが我等の始まり」

恋仲のハジマリ。

「違いますっそーじゃなくて!その接吻の後は?」

「・・・・・・何でもよかろう」

「ちょ、ちょっとー!誤魔化さないでくださいよぉ〜」

「ふふ」

それは恋なのだ。恋ゆえに。恋が為に。恋のままに。

そなたを思ふと、御香のかほりも胸に届かなくなるのでおじゃる。

そなたがわらわの全てを支配してしまふから。



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