ゆらぁん、と水面を漂う色鮮やかな金魚は

ふわりひらりと揚羽蝶を思わす尾鰭を水の流れに委ね、揺らめかせ、

いつか果てにぞ泡になりて、消ゑてしまふのでせう・・・ね。

あたかもあたかも 人魚媛の如く。

「薬売りや」

黒鶫のように高く綺絹のように美しゅう声で俺の名を呼ぶその女。

「何ですかい」

空返事もいいところで、あぐらをかきながら、俺を探しているだろう女に応える。

「どこぞ?どこにおるのじゃ?」

「こちらです、よ」

「・・・あ。ようやっと見つけられたでおじゃる」

襖の隙間から俺の姿を確認すると、そろそろと来て、すぐ隣にきちんと正座をした。

「そんなに探しておられたんで?」

俺は決して益荒男なんて言えるような雄じゃぁ、ありませんが。

この瑠璃姫さんは間違いなく手弱女と言える雌なんでしょう、ね。

「そなたが突然消えるからぞよ」

「それは此方の台詞でございますよ」

いつだってあんたは泡になって消えてしまいそうじゃぁ、ありませんか。嗚呼怖ろしい。

「嫌じゃ」

「ん・・・?」

「わらわは消えぬ。そなたがおるのなら、いつまでも消えぬ」

「ほぉ・・・そいつは嬉しゅう御座います、ねぇ」

つまりあんたと俺は死ぬまで、いや死んでも離るることはないってことですかい?

そいつは気分がいいや。

俺はもう恐れるこたぁないんですかね。あんたは消えないんでせう?

いずれか、死がひょいと尋ねてきても、

あんたと2人で泡になって、水の中を金魚みたいに、人魚みたいに、

漂い流れに身も心も委ねるのも、悪くない。

何せあんたと俺は離るるこたぁないんですから。こいつは気分がいいや。

随分と楽になれそうだ。




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