瑠璃姫と薬売りは並んで歩いていた。

「まさか学校に来るとは思わなかった」

「暇でしたから」

「あたしは暇つぶし?」

「そいつぁ、どうですかね」

「何そのもったいぶった言い方」

「よく言われますよ」

「反省しないんだ」

「もういいじゃぁ、ありませんか」

「男ってすぐ逃げようとするのよね」

「これは手厳しい…」

「あたし男には五月蝿いのよ」

「朝まで俺の下で淫乱極まりなく悶えてた癖に」

「そ、それはっ…」

痛いところを突かれて顔を赤くさせる瑠璃姫をくつくつと薬売りが笑う。

瑠璃姫が選んだ服はとても似合っていた

東洋人の顔立ちだけどエキゾチックな雰囲気もあるから服はセクシーな欧米服にしたのは正解だったらしい

深紅の肩出しセーターに黒のタンクトップ、布や金細工で飾られた大きめのジーンズとブーツを身に付けて

褪せた穂先色の髪は自然なポニーテールにしている

瑠璃姫は不覚にも見事に着こなす色男にしばらく見惚れてしまっていた

「まぁ溺れてしまった俺が言えたタチじゃぁ、ありませんがね」

「…溺れてたの」

「何せ随分と久方振りなもんでしたから」

「久方振り?」

「丁度あの日もこんな日暮れ時でしたかね…宵の明星を2人で見てたもんで」

「薬売り?何のこと言ってるの?」

「…いえ…何でも御座いません、よ」

「ちょっと、何でいつも話してくれないの?」

「それは…」

『けけけ』

瑠璃姫の背後に突然腕が現れ、彼女の腕を掴み引く。

「!?瑠璃姫!!」

「いやあああ」

「ちっ…」

薬売りは謎の腕に札を貼り、緩んだところで瑠璃姫を一気に抱き寄せる。

『けけけ』

不気味な笑い声を響かせて腕は消えていく。

「はぁっ…はぁ…」

「い、今の…何…」

「恐らく…モノノ怪の、『袖引き』」

「そ、そでひき?」

「普通は月影の夜に出るんですがね…闇の中へああやって引きずり込むんですよ」

「な…何それ…お化け?」

「そんな可愛いもんじゃぁ、ありませんよ…こいつぁ…厄介ですぜ」

「厄介って?」

「奴は女を酷く、憎んでいるので、御座いますよ…それも恋をしている…若い女を」

「こ、い…」

恋?恋ってまさかこの得体の知れない隈取り男に?

そんなの有り得ないわ。有り得っこない

だって、それを認めたら

認めたら

全部おしまいになってしまうわ

「瑠璃姫…どなたか思い人でも、いますかね」

「いない…多分」

ていうかこいつ無神経にも程があるんじゃないの。今朝あたしを抱いたのはどこの誰よ

もし今居るって言ったらどんな顔するのかしら。そもそもあたしのことどう思ってるのよ

「薬う」

「帰ります、か」

「え…あ、うん」

また、はぐらかすのね

でも今は微妙な気持ち。自分でも知りたいのか知りたくないのか分からない

家に着くまでお互いに一言も話さなかった

何なの

何であたしがこいつに気を使わなきゃならないのよ

「もう、嫌」

「はい?」

あたしはたまらなくなって彼の胸に飛び込む

「お…っとと…どうしたんです、いきなり」

「…を…な、で」

「え?」

「わらわを1人にしないでぇ!」

「え…」

「…え、あれ?…今あたし何て…」

「瑠璃姫…」

「ご、ごめんなさい。何でも…っ!」

顔を上げると強引に抱き締められて、唇を重ねられた

「…話します、よ…俺たちのことを」

「え…」

「あなたは…俺が生涯かけて、愛した女の…生まれ変わりです」

「生まれ変わり?ちょ、待って…分かんないわ。そんないきなり、」

「やっと、やっと会えた…愛しい…瑠璃姫…」

「薬売り…」

そんな切ない目で見つめないで。あたしを貫くような、そんな目で

薬売りは淡々と話し始めた







卍つゞく卍


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