長いようで短かかった夏休みも終わり、今日から学校だ。
二学期制だから休みが明けても新学期とは言えないけど気分は新学期、気持ちを新たにと行きたいところではある。
なのだが、…何でもない登校風景のはずなのに、なんだか緊張を覚えて実はちょっと落ち着かない。
自分でも訳が分からなくて、首を傾げながら校門を通り抜けた。

「おはよ、健二」

昇降口に入ると、ちょうど佐久間が上履きに履き替えた所だった。

「おはよう」

僕も同じようにスニーカーから上履きに履き替えながら、挨拶を返す。

「…何、どうした?元気ないじゃん?」
「ちょっと緊張しちゃって」
「何で?」
「あー、…よく分かんない」
「なんだそれ」

なんだそれ、と言われても分からないものは分からないのだから、聞かれたって困る。
僕だって困ってるのだ。落ち着かないし。

「まぁ、あれだよな。お前有名人なってるかもな」
「え?」
「一時とはいえOZ混乱の犯人だって、ニュースに流れたわけじゃん」

あの写真のお前に気付いてればの話だけどさ。全国ニュースだったし、結構な騒ぎだったから写真見かけた人数は多いだろうし、少なくともクラスの奴は気付いてると思うぜ?
不幸中の幸いっていうか、お前学校内で顔広くなくて良かったな。
なんてからから笑う佐久間の話は頭に残らず通り抜けていく。
そうだった。そういえば容疑者扱いされてニュースで顔写真流されたんだった。
無実であると分かって欲しかった人達にはちゃんと分かって貰えたから忘れてたけど、そうだった!
うああどうしよう教室行きたくない。

「って、止まるなよ。口下手な健二くんに代わってフォローはしてやっから」
「お、お願いします」

それはもう切実に。
これからの学校生活を円滑にそして円満に送っていく為の大問題であるけれど、自分がどれだけ言葉下手なのか自覚がある分友人の申し出は願ってもない。
でもあれかなぁ、先生の呼び出しとかあるかもしれないなぁ。事実がどうあれ説明しなきゃなんないんだろうし。
こればっかりは友人に頼るわけにもいかず、それを思うとまたしても憂鬱な気分になる。
いつまでも歩こうとしない僕に焦れたのか、佐久間に「ほら教室行くぞ」と促されて落としていた視線を上げた時、目の前を通り過ぎようとした人影とばっちり目が合った。

「「あ」」

それは、よく知った姿。

「あ。夏希先輩。おはようございます」
「お、おはようございます」

それは、久しぶりに見る制服の夏希の姿だった。
一瞬惚けて、胸が鳴る、そのせいで佐久間よりも挨拶が遅れてしまう。

「おはよう、健二くん。佐久間くん。久しぶり…じゃないか。こないだ会ったばっかだもんね」

この間という言葉に、再び胸がどきりと鳴る。

「俺はそれなりに久しぶりですけど、先輩がこんなギリギリに登校って珍しいですね」
「そうかなぁ、そうでもないと思うんだけど。って、ごめん。私、職員室寄らなきゃなんなくて」
「あ。そうなんですか」
「すみません、お引き留めして」
「ううん平気平気。こっちこそゆっくり話せなくてごめんね」
「いえ」

笑顔でまたねと手を振り、足早に去っていく先輩の背中を見送りながら、あまり進んで話せなかった自分に自己嫌悪。
をする前に、肩の力が抜けたことにほっとする。
話してる最中は久しぶりに会ったわけでもないのに、初めて見る格好でもないのに、心臓がどくんどくんと煩くて仕方がなかった。
いや、姿の見えなくなった今でもまだ治まっていないけど。
顔が少し火照っているのも佐久間に「お前顔赤いよ」と言われなくたって分かる。
ああそうか。朝からの理由の分からない緊張感はこのせいだったんだ。
つまりは、夏休み明け最初の登校日で、夏希先輩と一応お付き合いというものを始めてから最初の登校日で、くすぐったいような恥ずかしさもある。

うああ、どうしよう。今日からの学校生活、心臓が保たないかもしれない。
頭を抱えた健二の中から、犯人扱いされたままかもしれないという懸念は、もう遥か彼方に飛んでいた。











同じ頃の夏希。

「夏希おはよう。久しぶり、ってどうしたの?顔赤いよ?」
「ななななんでもないっ!」

(ああああどうしよう。健二くんの制服姿久しぶりで緊張した。うわーうわーなんか恥ずかしい!)













(09/09/11)

夏休み明け、久しぶりに制服で会ってお互い意識して戸惑ったりしたら可愛いな^^
久遠寺高校が二期制かどうかは適当です。



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