隣を歩く彼の顔を盗み見た。
柔らかさを残したまま、成長した精悍な顔つきの横顔がそこにあった。
互いに大学生となり、彼も私も年を経て幾分あの頃よりも大人びたと思う。
ほとんど差の無かった背は、あのまま止まってしまった自分と違って、今では彼の方が高い。
それに僅かとはいえまだ伸びているらしい。
比べても仕方がないことではあるけれど、ちょっとだけ悔しい気もする。ちょっとだけ。

「なんか悔しいなぁ」
「え、何がです?」

何気なく呟きとなってしまった言葉に、隣を歩いていた彼が律儀に反応してくれた。些末なものでも拾ってくれることが実は嬉しい。
その当人、健二はきょとんと眼を丸くして不思議そうな顔をしていた。
ああ、驚いた時の表情はまだ変わらない。幼さが残っていて可愛らしくもある。
ぼんやりと、知られたら拗ねられてしまいそうなことを思いながら問いへの答えを返す。

「出会った頃はほとんど身長変わらなかったのに、健二くんの方が高くなっちゃったなぁと思って」
「一応男ですから。上じゃないと僕の立つ瀬がないっていうか」
「そうなんだけど」

理屈で分かっていても歳は私の方が一つ上だから、悔しく感じてしまうのだ。

「それに夏希先輩は」
「先輩?」
「ええっと、夏希、さん」

うん、まぁそれならいいか。
未だに言い慣れない彼は、時折こうして先輩呼びに戻ってしまう。敬語のままでもあるし、「さん」付けでも恥ずかしいらしい。
その気恥ずかしさが伝わってきて私も恥ずかしくなるのだけれど、なるべく悟られないように先輩呼びであることを指摘するのだ。
夏希さん。言い慣れない、そして呼ばれ慣れないそれは、特別であるような気持ちになる。

「夏希さんは、僕が身長低い方が良かったですか?」
「え?…うーん……ちょっと嫌かも…」

そうだなぁ、低い人が嫌いとか高い人が好きとか、あんまり気にしたことはないし。健二くんがどうってのも考えたことないけど。
悔しいけど、健二くんが高い方がいいなぁと思った。
たぶん見てきた人達、周りにいた人達がそうだからだと思う。
お父さんとお母さんもそうだし、他の親戚だってそう。
うん。悔しいけど、健二くんの方が身長高くて良い。

「あ、でも、あんまり離さないでね」

我ながら結構無茶なことを言っている自覚はあった。
本人の意識の外にあるものをどうこう言っているのだから。意識下にあるものならば、身長で悩む人なんていないだろう。
それでも「善処します」と困ったように答えた彼が可愛らしくて、そして愛しくもあって。
たまらなくなり、遂にはその片腕に思い切り飛び付いた。

その後健二がバランスを失って、二人揃って倒れ込み、顔を合わせて真っ赤になったのは想像に難くない。








手を繋いだ先にある明日。
そんな例えばの話。









(09/09/01)

うわ、ぐだぐた過ぎる。
じれじれした二人が好きです(暫く経ってもじれったさに変わりはない気がします)が、じれじれした二人が書けません。

健二の方が身長高いと良い。徐々に先輩呼びから脱却すると良い。



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