「……」

ディアッカは目の前の状況に天井を仰いだ。
ここは議長室のはずで、執務をとる場所のはずだ。それに間違いはない。
イザークが見たら、仕事中だと怒鳴り出すのだろう。
いや、議長には甘い彼のことだから議長一人に関しては黙認するかもしれない。議長に関しては。
彼女の隣の青年に対してはきっと容赦はない。

来客用のソファではキラとラクスが仲良く眠っていた。
キラはラクスに膝枕をする形になっている。普通は反対じゃないのかと思いつつ。
見たところ、働き過ぎのラクスをキラが見兼ねて休ませたといったところか。
その証拠にキラの右手には書類が握られたままで、ここで仕事をするつもりだったらしい。
寝付くの待っている間に自分も眠ってしまったのだろう。
それもそのはずで、ディアッカから見ればキラも働き過ぎだった。
始めからラクスを休ませるつもりで議長室に来たようだ。でなければ仕事をわざわざここに持ち込んだりはしない。
相変わらずというか。実に微笑ましいのだけれど、もう少し場所というものを考えてほしい。
この様子に慣れていない者はどうしても面食らってしまうのだ。二人を知っている自分ですら対応に困るのに。
もしかしたら自分が知らないだけで、被害者は多数いるのかもしれない。
今更言ったって無駄なのは承知している。自覚の無い人間に何を言っても意味をなさないと。
さらにはこの二人には特に無駄だというのも分かっている。
だが、それでもだ。

とりあえず、今の状態ならこれといって被害を被ることはないのがせめてもの救いだろうか。
これでどちらか一方が起きていたりしたものなら、それこそその空気にあてられてしまうのだから。
果たして自分はタイミングが良かったのか、悪かったのかは微妙なところである。

いや、待てよ。とそこまで考えたところで、ディアッカはある点に思いあたった。
イザークが怒りだしたとしてもキラのことだ、さらりと受け流してしまうだろう。
そうなればイザークの怒りの矛先が向くのは明らかにこの自分ではないか。
…勘弁願いたい。とばっちりを受けるのはごめんである。
しかし、呼びに行ったはずの自分が戻って来なければ、自身でここまでやって来るかもしれない。きっとその後には面倒なことになるのだ。
その様子が簡単に思い描けてしまう自分が悲しい。
とにかく一度戻って理由を捏ち上げた方が、面倒なことにならなくてすみそうである。少なくとも自分は。
精神衛生上の安定を守るため引き返そうとした時だった。まだ何もしてないはずなのに扉が急に開く。

「ディアッカ貴様、議長を呼びに行くのに一体何分かけて…」
まずその声に、そして視覚でその姿を確認して回れ右をしたくなった。した所で逃げ場なんてものは無かったが。
運悪く軍では一応上官のイザークが予想通りやって来てしまったのだ。
ここが議長室だということを忘れているのではないかと思うくらいに、大きく文句を言いながら。
だが文句を言い終える前に、ディアッカの後ろ側に広がっている光景が目に入ったのだろう、ぴたりと動きを止めた。

ラクスが眠っているのに気付いて声をおさめたようだ。
彼女が体を預けている人物も確認して、はぁと息を吐き出した。
「…あれ?怒んねぇの?」
「…この二人に今一番必要なのは休息だということくらい俺にだって分かるわ!バカ者」
「まぁねぇ…人の言うことなんか聞きゃしねぇかんな。全く似たもの同士っていうかさぁ」
キラがラクスに似たのか、ラクスがキラに似たのか。あるいは両方なのか。
やっかいな所ばかりが似ているので困る。
眠っている顔からはとてもプラントのトップに立つ者と、最強を誇るモビルスーツのパイロットには見えないというのに。
表だけで判断してはならないというのは、まさにこのことに違いない。
「で?どうするのよ?」
「ふん。委員会の狸どもには帰ってもらうさ。議長は緊急の為来れませんと丁重にお断わりしてな」
「ま、いいんじゃねぇの?どうせ一人じゃ何も出来ない連中だし」
「キラの方はシンとルナマリアにやらせとけ。不備があってもキラが後で対処するだろ」
後で泣きを見るはめになっても知らないということだろう。つまりは。
議長には甘いがキラには厳しいイザークだ。むしろ、それだけで済んだのなら進歩である。
シンとルナマリアに言えば渋るだろうが、委員会の連中と比べたら可愛いものだろう。
渋るどころか不平不満を言いだすに決まっている。
議長がいないのをいいことに、議長の前では被っている皮を剥がしてしまうのだから。
イザークが狸と言いたくなるのもよく分かる。
連中が興味があるのは自分の地位を保つことだけなのだ。
議長は気付いていないと思っているのだから笑えて仕方がない。
彼らがあまりにも滑稽で。

「オーケー。それじゃ俺はシンとルナマリアに言ってくるぜ」
「ああ、そうしてくれ」
全く常々休息を取っていればこうならないものを、と悪態をつくイザークの相手をしながら議長室を後にした。
イザークだって何度言っても中々休もうとはしないのだから、人のことは言えないんじゃないかと胸中で突っ込みを入れつつも。




だんだんとイザークとディアッカの声が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
聞こえなくなったところで、ぱちりと一人が目を覚ました。
いや、目蓋を上げたと言った方が正しいだろう。
ディアッカが入ってきた辺りからすでに目覚めていたのだから。
どうするのか様子を伺っているうちにイザークがやって来て、どうやら見逃してくれることになった。


目覚めた人物、キラは少し思案して呟いた。
「…後でお礼とかした方がいいかな?」
イザークとディアッカ、そしてシンとルナマリアにも。
気にしないかもしれないが、申し訳なくもあった。
けれどそれ以上に心遣いが温かくて嬉しくて。自然と顔が綻んでいた。

ならば与えられたこの時間に感謝して、有効に使った方がよさそうだ。
隣で眠るラクスはまだ起きそうもないことでもあるし。

そしてキラは再び紫色の瞳を閉じた。
次に起きる時には水色の瞳が自分を見つめていることを確信して。












バッドタイミング







07/03/09
Title by 秩序ある世界

DESTINY/after Special Edition4

ディア+イザとキララクに絡んで欲しくて(これは絡んでるとは言えないけど)



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