僕が瞼を閉じても閉じなくても結果が変わらないのならば。
せめて、君から瞳を逸らさずにいようと思うのだ。
今は。

閉ざされたままの深い藍色が、見ることが叶わない今は。





理由なぞ、それは
















深く息を吐き出した。
その音ですら、静寂に包まれた闇の世界では、大きく聞こえる。
心配した所で、壁に吸収されて音が洩れることはないのだけれど。
壁一枚、扉一枚を挟んでいるにもかかわらず、辺りにはどくとくの薬品の匂いが薫っている。
もう彼女の側から、こんな匂いを嗅ぎたくはなかったというのに。
瀬戸際に立たされた彼女はまた、消毒液の香る部屋で眠っている。
幸いなのは、彼女が自らの意思で命を繋ぎ止めていることだろうか。
自らの意思で留まっている。
出来ることなら、完全に回復するまでは起こさずにいてやりたいところではある。
だが、もしかしたら、もうすぐ起こさなければならなくなるのかもしれない。
恐らくアジト内は一気に緊張が増し、騒がしくなるのだろう。
静かな場所であって欲しいここも、少なからず影響は出る。

寄りかかっていた扉から身体を離し、人の気配など無い場所に声をかけた。

「哲」

「へい」

「ここを任せるよ」

「へい」














カツカツカツ。











カツカツカツ。











誰もいない廊下にただ足音だけが鳴り渡る。

そう、ここは彼女が居る場所なのだ。
いずれ起こさねばならないのだとしても、それにはまだ幾分か早過ぎる。
なのに、格好も考え方も同じような個性の欠片もない連中ばかりが土足で踏み荒そうと群れている。
目障りだ。

ドォォォン。
轟音と共に、雪崩れ込む草食動物たち。
至極、目障りだ。

「弱いばかりに群れをなし」

大した力など見受けれられやしない。
ここで腕の立つ奴がいれば少しは楽しめそうなものの、そんな気配は生憎と感じられなかった。
なら辿る末路は全員同じだ。
僕に、


「咬み殺される、袋の鼠」






鮮やかな紫色の炎が2つ、燃え盛った。
















守る理由なぞ、それは。
君がいる。
それだけで十分なんだよ。







だから、まだ少し眠っておいで。










08/08/07

標的いくつかは忘れてしまいましたが、その辺りの雲雀さん。


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