「あ」

ツナさんたちのいる教室に向かう途中、響いてきた知っているメロディーに足を止めた。
自分の学校ではないのに、臆することもなく、発信元を探るように歩き出す。
ようやく辿り着いた音楽室で、ピアノを弾いていたのはよく知っている人だった。
滑らかに動いていく指先。
白鍵と黒鍵。
普段の彼からは想像も出来なくて、意外でしかなくて。
それなのに。それなのに、何故か涙が出そうになる。
訳も分からず勝手に胸が詰まるのは、どうしてなんだろう?

私が聞き始めて2曲目が終わったところで、彼は入り口に立っていた私に気が付いた。

「…お前、何してんだ」

「獄寺さんこそ、ピアノ弾けたんですね」

「弾けちゃ悪いかよ?」

「わ、悪くないです!」

少し拗ねたように聞こえたので、慌てて否定しておいた。
ちょっと意外だった、という言葉は飲み込んでおいたけれど。
でないと、本気で臍を曲げてしまいそうだったから。
でもきっと、さっきのは照れ隠しだったんじゃないかと思う。
誰にも見せたことがなかったのだろう。

だったらいいじゃねぇかと言って、獄寺さんはまたピアノと向き合った。
まだ、帰るつもりはないらしい。
ツナさんの帰りにはいつも一緒のはずなのに、ここにいるということは恐らく待っているのかもしれない。
補習か、はたまた別の何かかは分からないけれど。補習なら彼には縁がない。
だとしたら、教室には入れないだろうから音を辿ってきたのは正解だった。
今日の獄寺さんは穏やかで。
怒鳴られるかと思っていたので、なんだか拍子抜けしたけれど。
ただ、とりあえず分かるのはこのままここで聞いていても良いらしいので。
ならばと、再び流れ出すピアノの音に耳を傾けた。



耳に心地良い旋律は、何故か分からない物悲しさを含んで私の奥底に響いてくる。
がらんと他に人気のない放課後の音楽室だからか。
奏でているのが、普段は破天荒な彼だからか。
それとも、彼の知らない部分を見せ付けられているように感じるからか。
あるいは。




いつか、この痛みの意味が分かる時が来るでしょうか。
















それは切なさに似て



胸に痛みを覚えたんです。












07/12/07
Title by 群青デイズ(closed)

獄ハルと言ってみる。ピアノを弾く獄寺がとても見たいです。



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