倉田中心に短文をとりあえず4つ。時系列はばらばら。




01:袴

(おお…っ!)

初めて袖を通した自分の弓道着に伊勢崎は僅かながらの感動を覚える。
入部してから新入部員全員が揃って誂えた真新しいそれ。
着方なんてまだ慣れていなくて、まわりを見渡せばほとんどが服に着られている。
(ははっ。なんか不恰好だなぁ)

「…何にやけてんだお前」
「うわっ!倉田!びっくりさせんなよ」
「勝手に驚いたのはそっちだろう」
「そりゃーそうだけど」
「で、何かしたのか」
「え?ああ別に、みんな着慣れてなくて不恰好だなぁって」

着替え終えて練習に向かい始める同級生たちに視線だけを向ける。
着慣れないというより、見慣れないというのが正しいのかもしれなかった。
普段馴染みの薄い和装が、どことなく別の世界のようで。

「ああ、最初だけだろ。すぐ慣れる」

いや、間違いなく現実なのだけれど。

「というか、そう言うならお前も不恰好だ」
「ひっでぇなぁ」

冗談ではなく半ば本気で思ってそうな倉田に、伊勢崎はからからと笑った。






02:ファミレス

視線を感じた。
三対の瞳が驚愕の色を浮かべて自分の前のテーブルを見ている。
変なことをしただろうかとも思ったが、きっとまた自分にはない発想なのだろうと思い直して少し長めの銀のスプーンを手に取った。
一口分を掬って食べる。
(…うまいな)
そしてまた一口食べて、彼らの視線がどうやらテーブルではなく俺自身に向いているらしいと気付いた。
そういえば暫く黙り込んだままなのも珍しい。やっぱり何かしたのだろうか。

「…一体なんだよ?」
「え?いや、あ、なにっていうかさ」
「倉田、それ好きなの?」
「いや、食べたことなかったから食べてみたくて」
「…へぇ」
「で、なに?」
「意外、というより」
「あれだよな」
「うん」

「「「似合わない!!!」」」

「………はぁ?」

三人の揃った声に怪訝そうに眉を顰めた倉田の手元には、真っ赤な苺と真っ白の生クリームに彩られたパフェグラスがひとつ。


(副題:倉田に似合わないもの)






03:少女

「ゆいー」

ぱたぱたと小さな足でその子供は、少年の背を追う。

「どうした?」

足にぺたりと張り付いて、高くにある顔を見上げる。

「ごはんだって。ゆいのおともだちも」
「あ、どうもありがとうございます」
「イセ、なんで敬語だよ」
「や、なんとなく?」
「お世話になってる側だしねー、俺ら」
「そう!そんな感じで!」
「…なんでもいいから早く来いよ」

子供はもの珍しげに親戚の少年を見つめる。
子供が知っている顔とは違う顔を少年が見せていたから。
まだ幼い子供はそれが何でなのか理由は分からない。けれど一つだけ分かることがあった。

「ゆい、だっこして」
「いいよ」

食卓への道すがら、子供は距離の近くなった少年の腕の中で彼らの会話を聞いた。
きっと少年は、嬉しいのだ。
彼らが来てくれて嬉しいのだ。
ほこほことしたあったかい気持ちになりながら、子供は少し意地っ張りな少年の声を聞いた。






04:放課後

四角形の小窓から部屋の中を覗き見る。
でも見渡しても目当ての人物はそこにいなかった。
(倉田くらいいるかと思ったけど、二人していないか)
いないのだから仕方ないと音楽室から教室へともと来た廊下を戻る。
戻りかけて、捜していた(のはもう一人のほうだけど)人物がちょうど来た所だった。

「あ、倉田」
「野上、珍しいな。音楽室に用か?」

話しながら倉田は音楽室の扉を開ける。

「違うよ。伊勢崎捜して色々回ってたとこ。倉田知らない?」
「ああ。いや、悪いが知らない。携帯は?」
「出ないんだよねー。帰ってないのに、全くどこ行ったんだか」

見つけたら声かけといて。
倉田にそう頼んで、教室に戻ってればいいなぁと足を出した時、後ろから倉田に呼び止められた。

「え、何?」
「伊勢崎いた」
「どこに」
「そこ」
「へ?」

そこ、と倉田が指差したのは音楽室の中で。
怪訝に思いながら覗いてみる。

「あ」

そるとそこには英語の辞書と恐らくあれは手紙だろう、を広げたままうたた寝している伊勢崎の姿があった。

「中に入らなかったのか?」
「うん。扉の窓から覗いただけ。死角にいたんだ。音もなかったから気付かなかったや」
「寝てたんじゃな。まぁ見つかったんだから良かったじゃないか」
「うん」
「起こさないのか?用があるんだろ?」
「あー、まぁ、それはそれとして。なんか幸せそうだねぇ、こいつ」
「え?あ、ああ。マドンナからの手紙でも読んでたんだろうしな」

倉田の言うように、回りに転がっているものを見ればそうだと分かる。
人があちこち捜してる間寝てるとは、暢気なやつめと思わなくもない。だから。

「よし!イタズラしてやろうよ!」
「は?」
「上村呼んで、ベタだけど油性ペンで顔に落書きとか」
「…それはどうなんだ」
「もしもーっし。こちら野上!上村直貴応答せよ!」

言うが早いか上村と連絡を取り始めた野上に、勝手にやってくれと倉田はため息を吐いた。

「…どうでもいいが、静かにしないと起きるんじゃないか?」












(10/09/09)

01:一年な倉田と伊勢崎。

02:倉田のイメージにないファミレスで、さらにイメージにない苺パフェをどうしても食べさせてみたかったんですが、やっぱり注文してる姿も食べてる姿も想像出来ない恐ろしく似合わない(笑)

03:#2の民宿にて。懐かれてる倉田の可愛さったらない。

04:その後起きた伊勢崎の悲鳴が音楽室から聞こえたとか(笑)

二巻発売の勢いで書いてみたのはいいものの、案外彼らを動かすのはむつかしいです。
不完全燃焼なので、また書けたら書きたい。
神山男子校\(^o^)/


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