その日も常と変わらぬ朝だった。
エントランスホール脇の壁が一部無かったような気はしたが、即座に見なかったことにしている、あれなんてまだ可愛いものだと今なら思う。
今日に限って何故またリボーンはいないのか。それは自分の気紛れで休暇を与えたからなのだけれど。

恨むよ、昨日の俺。

溜め息を抑えて見据えた先に立つのは、不機嫌極まりない雲の守護者と。そして。

「やぁ、ボンゴレ」
「…ご無沙汰してます」

嵐のアルコバレーノ。
出来ることなら、朝からなんて会いたくはない御仁がそこにいた。







非日常はすでに日常の一部








いや、前言を撤回しよう。朝でなくても遠慮したい御仁だ。
曲者揃いのアルコバレーノの一人で、イーピンの師匠で、さらには雲雀恭弥の実父だと聞かされた時は驚愕したものだ。
だが同時に妙に納得したことも覚えている。付き合ってみると、色々な意味で雲雀以上の強者だと知るのだけれど。
にこりと終始笑みを耐える姿は逆に恐ろしく、まるで人の話を聞かない傍若無人ぶりは面倒で、途方もなく疲れる人だ。
今日はもう、他の仕事はしない。そうしよう、今決めた。あとから文句と小言が飛んで来ようが知ったことか。

「ええっと、今日はどうしたんですか?」
「恭弥の恋人が何処にいるのか教えて貰おうかと思って」
「へ?」
「教えたら咬み殺す」

じとりと右から視線が突き刺さる。

「君なら自分の部下の予定くらい把握してるだろう?」
「…ええ、まあ」
「咬み殺す」

さらに、ぐさりと鋭利な視線が突き刺さる。

「恭弥に聞いてもこの調子でね。教えてくれないんだよ」
「…なんで貴方になんか教えなくちゃならないの」

ばちりと、今度は火花が飛んだ、ように見えた。

…もう誰でもいいから助けて下さい。
話が進まないのはとりあえず脇に置いておこう。予想は出来るからだ。
理由は分からないが、風がクロームに会いたいと言い出したのだろう。
頑なに拒否する雲雀に焦れて他に知ってそうな人物に聞きに来た風と、阻止するべく追いかけて来た雲雀といった具合だろうか。
(この人、その為だけに朝から雲雀さんとこに押しかけたのか…泊まったりは、無いな。うん絶対無い。あり得ない)

確かにクロームは今イタリアではなく他国にいるが、果たして口にしていいものか。
どちらにしても、自分の命が危ないのは気のせいではない。
右からは刺すような視線が、左からは圧すような視線が、身を貫く。
雲雀は横に立つ自らの父親に対しても殺気を放っていた。
もはや慣れてしまった光景とはいえ、居心地の悪さを拭うことは出来ない。
こうした身内の場でも、公の場でもこの親子の距離感は変わらなかった。
…んん?

「…クロームに会われたことないんでしたっけ?」

ボンゴレ主催のパーティーやら何やら、守護者はもちろんのことアルコバレーノも招待しているはずである。
いくら会いたくないとはいえ、風に招待状を送らないわけにもいかず、先日のパーティーにはクロームも風も姿があった。
どちらとも会話をしたので記憶違いではない。

「何故か会わせてくれないんだよ、この子は」
「それは貴方だからだ。沢田、君になら分かるでしょ?」
「…ええ。痛いくらいに」

ああ、そうか。
ああ、なるほど。
綱吉自身も、京子をあの一応父親に会わせるのは出来ることなら避けて通りたいと思っているから、雲雀の心情は容易く察することが出来てしまった。
もしかしなくても、これは近い未来の自分の姿だ。

「そういう訳だ、ボンゴレ。教えてくれないかい?」
「教えるな」

風にも雲雀にも頷くことは出来ず、背中には冷や汗が流れる。
どうしたものかと頭を働かせるが、空回るばかりで。
だから、気付いた時にはすでに彼女はそこにいて、声に視線を向ければ項垂れそうになる。

「…恭弥とそっくり」

ぱちりと瞳を開いたクロームが、入り口に立っていたのだから。


すみません、雲雀さん。
色々放り投げてもいいですか?








「君かい?初めましてだ、クローム髑髏」
「っ、帰れ…!」











(09/12/31)

風雲親子企画『僕の父親を紹介します』様に提出



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