何だこれ。

大おばあちゃんの葬儀が終わって、親戚一同揃って夕飯の最中だ。がやがやと大人連中はビールだの日本酒だのでもはや酒盛りになってしまっている。
でもそれはいい。久しぶりに会ったってのもあるだろうし、仲が良いのを見れば大おばあちゃんも喜ぶだろうし。…考えたらまた泣きたくなってきた。
って、今言いたいのはそうじゃない。
すっかり陣内家の人間に馴染じんだ風の、知らない人間が一人。
夏希ちゃんと佳主馬の間に行儀よく座っていて、向かい側の理一おじさんも交えて何やら仲良さげに喋っている。
その理一おじさんの隣、佳主馬の向かい側にいるのが俺だ。
あまりにお腹が空いていたのでとりあえずご飯やら何やらかっ込み、一つ満足した所でようやく周りを見渡してみたら、居た。
居たというのはおかしいか、視界には入ってたのだから。認識したとでも言えばいいのかもしれない。たぶん。
昼間は大おばあちゃんのことで頭がいっぱいで気にも止めていなかったけれど、そういえば一族と一緒に弔問客を迎える手伝いをしていたような気もする。
鼻に詰められたティッシュは、まぁ、触れないでおこうか。
ともかくだ、夏希ちゃんが親戚以外の男ともちゃんと話せていて、佳主馬が懐いているっぽいことに驚いてしまう。
何だこれ。

ふとタイミングよく会話が一段落したのか理一が空いたので、了平はこっそり尋ねてみた。

「理一おじさん」
「ん?どうした?」
「今さらなんだけど、あれどちら様?」
「ああそうか、まだちゃんと話してなかったか」

悪かったね。もうみんな知ってるつもりだったよ。
そう詫びる理一に、いやそれはたぶんうちの両親も同じですからと胸中で返しながら、紹介してくれるらしいのでテーブルの反対側に視線を移す。
おじさんに「健二くん」と呼ばれて、知らない誰かは健二という名前らしい、夏希ちゃんと喋っていたそいつがこっちを向いた。

「はい」
「隣が克彦の長男の了平。自己紹介、まだしていなかっただろう?」

それだけかと思いつつ、他に言い様もないんだろうけど、どうもと軽く頭を下げる。
はたと気付いたそいつはあたふたと正座をし直して、隣で佳主馬に落ち着きなよとたしなめられている、返すようにどうもと頭を下げた。
同い年くらいに見えるのに、なにやら腰が低い。

「すみません。挨拶もしなくて。えっと、小磯健二といいます。夏希先輩とは同じ高校で」
「夏希姉の彼氏だよ」
「か、佳主馬くんっ!」
「佳主馬っ!?」

小磯健二を遮って佳主馬の放った一言に驚いた。夏希ちゃんの彼氏。それは意外な関係性である。
あの佳主馬の慣れた様子に案外佳主馬が連れてきた友達だったりして、とか思っていたけど全然違っていたみたいだ。
でも驚いたのは俺だけじゃなくて、遮られた小磯も、隣の夏希ちゃんも慌てたように佳主馬の名前を呼ぶもんだから首を捻るハメになる。

「え、彼氏でいいんだろ?」
「そう。大おばあちゃんだって認めてたし」

小磯に聞いたのはずなのに、なぜか佳主馬から返事が返ってきた。
まぁ間違っていないのならそれでいい。大おばあちゃんが認めてたってことは問題ないんだろうし。
それにどうやら当人たちは答えられそうもないようだし。二人揃って茹で蛸みたいな状態だった。
なるほど、さっき二人して佳主馬の名前を呼んだのは照れていたのか。まさに初々しいという言葉が当てはまる。それにしても。

「…何この恥ずかしくなるような二人」
「ははは。夏希は知ってるだろう?健二くんも奥手みたいだからね」
「まぁ、それはなんとなく」

見ていたら分かる。
そんな二人が何をどうして付き合い始めることになったのか気にならないわけはない。
貧弱そうに見える小磯を大おばあちゃんが認めて、佳主馬が懐いてるわけも。
俺が知らない間に陣内家に馴染んでもいるし、この数日一体何があったっていうんだか。
その場に居れなかったことがちょっとだけ悔しい気もした。

「でもあれだよ。健二さん、みんなの前で夏希姉に好きだって言ったんだ」
「!へぇ、やるじゃん」
「か、か、か、佳主馬くん、その辺はもう…」

言われた小磯はもう顔だけじゃなくて、耳まで真っ赤だ。人間そこまで赤くなるもんなんだなぁと感心してしまう。
というか、みんなの前でってことはここに来てから告ったわけだ。これからいいネタにされるのが目に見えている。
それでも佳主馬は止めず、次に言いかけたことに悲鳴を上げたのは夏希ちゃんだ。

「わ、わたしっ、台所手伝ってくる…!」

と言い逃げるように広間から出ていった。
それはもう脱兎のごとく。

「逃げたか。でも、台所に行った所で相手が変わるだけだろうに」
「母さんたちの格好の的、かな」
「おそらくね」

そこには聖美おばさんだけじゃくて、俺の母さんもいるだろう。
むしろここに居るより弄られる夏希ちゃんが目に浮かぶ。
みんな不得手なのを知っていてからかうんだから、たちが悪い。

「健二くんは珍しそうだね」
「あ。学校であんな夏希先輩って見たことなかったので」
「そうなんだ」
「うん」
「それちょっと気になる。学校での夏希ちゃんてどんな感じなの?」
「えっと、」
「ちょい待ち。それ聞く前にさ」

ほいと、手を伸ばす。

「これからよろしく」
「あ!こちらこそ」

同じように伸ばされた手を取って握手を交わした。
同年代と改めて握手とかちょっと恥ずかしいけど、なんとなくしておきたかったから。
随分と小磯と親密になってる親戚たちに近付きたかったのか、なんなのか。
理由はどうでもいいけど。
小磯の手は、野球をやってる自分とはだいぶ違ったが、案外しっかりした手だった。

「こちらこそ、宜しくお願いします」











未成年につき、酒杯はまだ、交わせないけれど。













(09/11/01)

了平って高3なのか高2なのかどっちなんだろう。高2のつもりで書いてますが。
健二は了平とも仲良くなればいいと思います。ゆくゆくは一緒にお酒飲んだりすればいい。

映画のラストに了平いますよね、そういえば。…たまたま家の中入ってたとか、そういうことにしておいて下さい←←←



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