からん。
麦茶を注いだコップの中の氷が歩くたびに揺れて、涼しげな音をたてる。

はしゃぐ声と素っ頓狂な声が聞こえたので、庭先を覗いてみれば又いとこ達と健二が遊んでいる所だった。
遊び相手になってあげているのは健二なのだろうが、どうも遊ばれているように見えてしまうのは致し方ないだろう。
そう見えるものは見える。
暫く柱に寄りかかり麦茶を飲みながら様子を眺めていた佳主馬は、事態を予想して慌てて声をかけた。

「健二さん、それ」
「あ、佳主馬くん、ってうわぁぁぁ」
「………」

一歩遅かった。声をかけたタイミングも悪かったかもしれない。たぶん。
ごめんなさい、と一応心中ではあるけれど謝っておく。あくまで心中なのは今のは避けれたんじゃないかと思うからだ。というか想定内だろう。
ぎゃはははと笑う祐平と真悟を背後に、頭から水を被ってすっかりびしょ濡れになった健二は「…久しぶり」と苦笑した。
それどころじゃないはずなのに、どうにもずれた人である。
台所にコップを置きに行きながら、あの子らの母親にも声をかけて、タオルを持ってくるかと佳主馬はその場から離れた。






「ごめんなさいね、健二くん」

戻ってきてみれば、さっきよりも濡れていた。
止めようとして、けれど上手くいかなかったらしい。
ここまで来ると、バスタオルよりも着替えの方が必要かもしれない。

「いえ、大丈夫です。濡れただけですから」

それでも怒るわけでもなく、困ったように笑うだけの健二は懐が深いのか、或いは鈍感なのか判断に困る所だ。
母親が来てもぎゃあぎゃあと騒いだままの二人は、真緒も混ざって三人になっている、謝る気配もない。
というよりも、単純に健二と遊んでいるだけなのだろう。傍迷惑な遊びではあるけれど。

「二人とも謝りなさい」
「よえーの」
「よえーのー」
「こら真悟!」
「祐平!」

ごつん。と小気味の良い音が響いて、大人しくなった事の主犯である祐平と真悟は、それぞれ由美と典子に抱え上げられて母家へと連れられていった。
真緒も一緒に付いていったので、庭に残ったのは健二ひとりだ。

「平気?」

そう言って、もはや気休めにしかならないが、持ってきたバスタオルを差し出しす。

「あ、ありがとう。うん。ホント濡れただけだし。放っておいたら乾くと、…いや着替えなきゃだめかな、やっぱり」
「だろうね」

夏とはいえ、時刻はもう夕方。
陽は沈み気温は下がっていくばかりで、夜へと近付いていくその中早く乾くとは思いがたい。
何よりその状態で座敷に上がるには厳しいものがあるのだ。
どうやっても一度、着替えなければならないだろう。

「まさか水をかけられるとは思わなくって」

わしゃわしゃとタオルで髪を乾かしながらそう言う健二に、あの二人にホース預けた時点で予想出来たと思うけど、という言葉は飲み込んだ。
出来たのは自分であって、人がそうであるとは限らないからだ。
うん。この判断は正しかったはずだ。

「でも楽しかったよ」
「は?水かけられて?」
「僕一人っ子だし、親戚ともああやって遊んだ記憶がないんだよね。なんか兄弟みたいで嬉しいっていうか」
「…ふぅん、変わってるね」
「そんなことはないと思うんだけどな」

自分も去年の今頃はまだ兄弟姉妹は居なかった。
それから妹が生まれたけど、生まれてからまだ一年も経ってなくて、一緒になって遊ぶのもまだ先の話だ。
だけど特に兄弟が欲しいとか考えたことはなかった。
居たら居たで良いことばかりじゃないだろうし。
でも、親戚が集まれば遊んでくれる人が居たし、自分がその立場に回ることだってある。
おそらくそこの差は大きいのだ。
いや、でも、それにしたって水をかけられて嬉しいとかは無いと思う。
本当凄いのか凄くないのか分からない人だ。
まぁ今はそれよりも。

「お風呂借りれば?」
「え、でも、着替えれば済むし。先にお風呂頂くのは申し訳ないっていうか」
「たぶん台所には事情伝わってるだろうから問題ないと思うけど」

タオルで拭くのも限界があるし、あとで着替えると言ってもどうせならお風呂に入ってしまえば色々と手っ取り早い。
そう考えての提案だった。
遠慮するだろうなとは思っていたけれど。
そんな会話を見計らっていたのだろうか。
タイミング良く奥から「健二くん、お風呂もうすぐ沸くから入ってねー」と声がかかった。
少し驚いたけど、だってタイミングが良すぎる、それを受けてだめ押しとばかりに畳みかけてみる。

「ほら、おばさん達もそう言ってるし」

自分だけではなく、おば達にも勧められてしまえば健二に断る術はない。
もはや家族カテゴリーに入れられているだろうし、この状況では遠慮だって必要ない。

「…頂いてきます」

ようやく、申し訳そうに頷いた表情があまりにその人らしくて、喉の奥で笑った。


今年も陣内家に心優しき少年がやって来ました。











「あ。良ければ僕、祐平くんと真悟くんと一緒にお風呂に入っちゃいますけど?」
「本当?助かるわぁ」
「なら祐平達連れて来るから先に入っちゃってて」
「はい」
「……健二さんて、お人好しだよね…」
「え?」











(09/09/25)

健二さんとちびっこ達って良いですよね。振り回されてる健二さんも良かです^^
これ別に佳主馬視点じゃなくても良かったんじゃないかっていうね…



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