※死ネタです。苦手な方は回避して下さい





















「はっ、何それ冗談?」

嘲笑うような台詞とは裏腹に、臨也の声色は硬かった。
目の前にはぐさりと胸にナイフが突き刺さった正臣の姿。
刺し口からはとくとく、とくとくと血が溢れ出し真っ白いパーカーを真紅に染め上げていく。

「…ははっ、あははははっ。酷い冗談だ。何やってんの正臣くん」

愛用しているナイフを彼に突き立てるのも、向けるのも、会話の中での戯れに過ぎなかった。
気紛れ、暇潰し、時々混じるほんの少しの殺意、けれどやはりただの遊びに過ぎなかった。
それを正臣も分かっていたはずで、普段ならめんどくさそうに相手をしながら躱していた。

「あの程度躱せないはずがないだろう?……なぁっ!」

なのにこれはどういうことだろう。
なぜ、正臣は血を流し壁にもたれるように座り込んでいるのか。
なぜ、今にも消えそうな命だというのに、息も絶え絶えというのに、瞳をぎらぎらと輝やかせているのか。
なぜ、こんな状況で嬉々として笑っているのか。
なぜ、俺はこんなにも焦っているのか。焦るだって?そんなバカな話があるわけがないのに。
ぐるぐると疑問ばかりが浮かんできて、必要以上に働くはずの脳がまるで機能していないらしい。

「……いざ、や、さん」
「…っ」

振り絞るように紡がれた自身の名前に、ガラにもなく心臓が鳴る。それは悲鳴だったと全てが終わってから気付くのだけれど。

「………なに?」
「っのゲ…ム、おれの…勝ち…す」
「はぁ?何言ってるのか」

意味が分からないよ。
そう続くはずだった言葉は、正臣の表情と台詞に遮られて音を無くした。



「ざまぁみろ」



最期の正臣の瞳に浮かんでいたのは、歓喜と嫌悪そして嘲笑。
その瞳と、ナイフを刺した生々しい肉の感触は、今なお離れることなく残り続けている。
延々と、延々と。

(あんたも過去から逃げられない)

空耳ではなく、確かに彼の声が聞こえてくるようだった。










囚われたのだとまだ気付けない















(10/07/10)
title by 夜来

臨也は、その手で殺してしまってから、人間のひとりではなくひとりの人間として正臣を愛していたのだと気付いて絶望すればいい。
でもこの話の場合正臣は臨也を愛していない、ここが重要です。



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