昨晩から雨が強かに地面を、アパートの屋根を、打ち付けていた。
鳴り止まないそれは他の雑音を吸収し、早朝という時間も手伝ってか、都会の一画だというのに妙な静けさも感じられた。
不思議な感覚だった。
微かに漂う雨の匂いも、重たい湿気も、たまになら悪くないと思える。もっとも連日重なれば気が滅入るものでしかなくなるのだけれど。
先日関東の梅雨入りが宣言されたばかりで、今日どころか予報では明日も明後日も降水確率は高いのだからあっという間に煩わしいものになるのだろう。
ぼんやりとそんなことを考えながら正臣はすっかり見慣れた天井を見つめていた。
起きるには早い時間。アラームは待機中のままで、まだ鳴ってはいない。
だというのに目覚めてしまった理由が情けなくて、一人苦笑を漏らす。
しかも悪夢を見て飛び起きるだなんて、なんともベターなことまでしてしまった。

(ベタも過ぎるよなぁ)

心中の呟きとともに、顔は泣きそうに歪んだけれども、正臣は気付かないふりをする。
誰にも見られる心配はなく、取り繕う必要がないのは正直ありがたかった。

あの日、雨は降っていなかった。
だから決してこの雨のせいではないのに。
まるで残響のように、繰り返し繰り返し、忘れられない悲鳴のように、雨音が鼓膜を叩くから。
絡みつく湿気と、抜け出せない空気に本当は泣いてしまいたかった。
見た夢のせいで止めどなくあの日の欠片が溢れてきて、泣き叫びたかった。
それでもどうしても出来なくて耐えて、耐えて。意地でもあったと思う。
そんな自分がやっぱり情けなくて笑ったら、一筋だけ涙が零れた。
拭われることもなく、ただ重力に従うままに最後はシーツに沈んでいく。

(あーあ、今日学校行きたくねぇ)

行ってもいつもの自分を出せない気がして、うまく笑えない気がして、あいつらにも気のいいクラスメイトにも、会いたくなかった。
ただひとり、彼女の笑った顔が見たいと思った。
それが一番出来ないのだと、出来なくしたのは自分だと、解っていたけれど。

止まない雨。
やまない、あめ。










僕は僕の愚かさを知っている















(10/06/16)
title by loathe

時期的には高1の6月。梅雨の雨に寄せてシリアス正臣。
もうひとつある梅雨の話は正臣誕に。



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