例えばの話だ。
例えば、こいつが結構呆気なく死んだとして、果たして悲しむ奴なんているんだろうかと考えてみた。
そうしたら、ざまぁみろと喜ぶか、若しくは気にも留めない奴ばかりだろうという結論に達して、幾分か気が晴れた。
まぁ、信奉者の子たちはそれなりかもしれないけど。

「今俺に失礼なこと考えてたでしょ」
「んなことないっすよ。もし臨也さんが死んでも気に止める奴なんていないだろ、って考えてただけです」
「正臣君、君ほんと図太くなったよねぇ」

いつの間にそこにいたのか、キッチンの入り口の柱に身を預ける臨也の姿があった。
別段驚くこともなく、隠す必要もないので淡々と答える俺に、手の中のマグカップを揺らしながら昔はあんなに可愛かったのになぁ、だなんてため息を吐きやがる。
正直に言う。
うざい。

「で、何してんすか」
「ん?コーヒーのおかわりと、ご飯まだ?っていう催促に」
「…人をこんな時間に呼び出しといて、良い身分っすね」
「こんな時間だからねー、波江は帰っちゃってるし。俺お腹空いたし、外食も自分で作るのも面倒だったから。いやぁ、正臣君が来てくれて助かるなぁ」

嘘をつけこの野郎。
助かるなんて思ってないくせに、白々しいにも程がある。
だが、皮肉すらも通じない相手に何を言っても無駄だと理解しているので、胸中だけで罵しりながら、出来上がったそれをフライパンから皿に盛り付ける。
何で俺がと思いつつ作りあげたそれは、結構な自信作に出来上がった。

「へぇ、美味しそうだ。正臣君、料理うまいよね」
「…どうも」

リクエストされたものが、この男のイメージからかけ離れていて戸惑いもしたが。いや笑いたくて仕方がなかったのだが、遅くなったのはそのせいもある。
これで帰れると思うと、もうどうでも良いような気になった。
何より改心の出来だ。
ただ、食べるのが綺麗なおねーさんとかだったらどんなに良かっただろうとも思うけれど。
あああ、なんて不運な俺。

「そうだ、正臣君」
「…なんですか」
「最後にケチャップで"好き"って書いてよ。あ、もしくは"愛してる"でもいいよ」
「………」

ふざけんなノミ蟲。
そう殴り飛ばしてやりたくなる。が、どうにかこうにかその衝動を抑えると、余計なことをして帰れなくなるのを避けたかったからだ。
(ああ、そうだ)
ふと思いついて俺は、卵の黄色が輝くオムライス。その上に、望み通りケチャップで思いきり大きく"死ね"、と書いてやった。
でかでかと、でかでかと。

「はい、臨也さん。もう食べてもいいですよ」
「…可愛くない。可愛くないよ、正臣君」
「可愛くなくて結構です」










愛をぶち込んで差し上げる!















(10/06/12)
title by loathe

前のが酷かったので口直しにフラットなものを目指した結果です。
しかしほぼ構想通りなのに、着地点がずれた気がするのはなんでなんだろう。


(10/07/29加筆修正)

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