若干パラレル/ぬるいですがよろしくない表現があるので一応注意







携帯電話を閉じ、漏れ出たため息は、騒音に紛れて消えた。

街は今日も変わらない様相で回っている。そこに暮らす人々もまた然り、雑踏を縫うように歩く少年もまた然り。
少年、紀田正臣の日常は今日も変わらず日常として存在していた。
おそらく他人とは少し逸脱した日常ではあったけれど、それが繰り返されれば少年にとっての日常になる。
ふと、正臣は髪と服に染み付いた煙草の臭いに気が付いた。
ホテルにいた時は気が付かなかったが、街の空気に馴染んだ結果だろう。
仕方がないかとは思いつつも、決して気分のいいものではなく眉を顰める。
さっきまで一緒にいた男は所謂ヘビースモーカーというやつで、目の前で本日二つめだという箱を潰していた。
ゴミ箱に捨てるまでの一連の動きをどうでもいいとばかりに眺めていたのは自分だった。
喫煙者、という言葉に含むところは何もない。吸いたいならそれはそいつの勝手だろう。
今回ばかりは吸わせなきゃ良かったと思ったが、後の祭りだった。今さら何を思ってももう遅い。
制服をクリーニングに出すのは面倒だなと思ったことすら、今から起こることを考えると些末なことでしかないのだから。
この嫌な匂いを染み付かせたまま、彼奴に会わなければならないことに比べれば。
会うつもりなどなかったというのに、ホテルを出てすぐ携帯のディスプレイに表示された新着メールが全ての予定を狂わせた。
それに強制力はないと知っていたが、無視したほうが後から面倒くさい。
何より自分が、決して認めたくはないが、抗えないとも知っていた。
彼奴はたぶん知り合った大人の中でも一番厄介な性格をしている。
昨日と今日で、いやさっきと今で主張が変わるようなそんな厄介さだ。
会いたくない。だが足は進む。酷く重たい足取りだが、ゆっくり確実に進む。
やっぱりあの男は今日が最初で最後にしよう、そう頭が考えたときには目的のマンションまで辿り着いていた。
ここまでのルートはもはや身体が覚えていると言っていい。それくらい通っている場所。
…ああ、苛々する。


自分が来ると予め分かっている時にはいつも開いてるドアの鍵に、不思議に思うことはもうない。
躊躇いもなく玄関を通りメインとして使っている部屋の扉を潜れば、一見人の良さそうな顔をした男がうっすら笑みを浮かべて立っていた。
外の街灯りだけが窓際に立つ男を浮かび上がらせている。薄暗い照明はほとんど本来の役目を果たしていない。

「いらっしゃい」

そう言うと近付いて来た男、折原臨也はその笑みのような人の善さなど持ち合わせていないと、短いとは言えなくなった付き合いの正臣は知っていた。
いや、解っていた。
だから今日も何を要求されるかメールを見た時点で分かっていたし、何を言われるかも分かっていた。もっともここ呼び出される理由なんて一つしかないのだけれど。
この男が機嫌を損ねるだろうということも、分かっていた。

「君、今日も誰かと会ってたの?感心しないなぁ」
「俺が誰と会ってたって別にアンタには関係ないことでしょう?」
「そうではあるけどさ、」

いいかけて、すっと笑みが消える。正確に言えば対客人用の善い笑みが消えたのだ。
赤い瞳はもう感情を映してはいない。

「その臭い」
「………」
「癇に障るんだよね」

ああほらやっぱり。そうと思っていたら、胸ぐらを掴まれドンと勢いよく壁に押し付けられた。
圧迫されて一瞬だけ息が詰まる。

「…っ」
「前にも言わなかったっけ?ああそれとも覚えてないのかな?そんな臭いで人の部屋に来ないでくれる?」
「っ、…急に呼んだのはアンタだ。別に俺のせいじゃない」
「ふぅん」

相変わらず反抗的だよね、君は。
それで興味を失ったのか、案外簡単に掴まれていた胸ぐらが解放される。
普段を思えば随分とあっけない。
少し噎せそうになりながら息を整えた。意味なんてないかもしれなかったが。

「まぁ、いいや。それで寝室まで来られるのは不愉快だ。先にシャワー浴びておいで、と言いたいところだけど」
「………」
「本人が希望してるみたいだし仕方ないかぁ」
「…何を、」

言っているのか。
そう開きかけた口は、折原臨也の口で塞がれる。息をつかせないほどに深く、そして長く。
酸素を欲して前にある胸を容赦なく叩いた。酸素が足りなくなるにつれ、それこそ必死で。

「っは…」
「君、ちょっと痛いんだけど」
「…っ……はぁ、は……なにを…っ」
「何をって、君はここでそのままがお望みなんでしょ?慣らす必要もないよね。だって」

にやりと上がった口角に正臣は自分の方が何を言っているんだろうと気が付く。
そうだ、これだって予想の一つではないか。

「君は既に楽しんで来た後なんだから」

分かっている。
分かっている。
分かっていて、それでもなお、ここに足を運んでいる。
こいつもあいつらと同じだ、そう思えばいいだけの話。何を今さら躊躇うのか。

「ねぇ、紀田正臣くん?」

びくんと肩が震えた。
けれど、割り切れずにいるから、この男に、自分に嫌悪するのもやめられない。
うっそりと目を細めた男が、面白いものを見るような視線を送っていることには気付かないふりをして、顔を背ける。
それすら男には面白いものでしかないと知りつつも。
結果、自分の首筋に顔を埋める男を享受して、最後には全て投げ出してしまうのだ。
いつだって、いつだって自分は。
鳴った水音を苦々しく思いながら、正臣は男に聞かせるように呟いた。


「…死ねよ」

ほんとに死んでくれ。










サディスティック・ゴッド















(10/06/12)
title by loathe

紀田くんは身体を売ってるよ相手は大抵男だよでも女の人の時もあるよ臨也とも関係してるよ、なパロでした。
正直、凄く申し訳なかった…

紀田くんを幸せにしたい!って言ってる人間の書くものじゃないですね。
ていうか、こんな燃えも萌えもないようなの誰も求めてないよ。



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