俺たちは、ただ、寂しさを共有している。





(なーにやってんだろうなぁ、おれ)

シーツにくるまり、覚えのあり過ぎる天井を仰ぎながら正臣はぼんやりと思った。
視界に映る部屋の全てのものが、家具の配置、色、形、距離感、薄暗い部屋の照明にいたるまでのどれもが見慣れたものだった。
ゆるやかに微睡みから覚醒し、寒さに身を震わせたは数分前のことだ。
眠ている間に処理はしてくれたらしく、身体に不快感は残っていない。どうせなら毛布なり何なりかけておいてくれればいいものを、丁寧なのか大雑把なのかいささか判断に困る。
自分と臨也との間で気遣いなんてものは無用なので別にいいのだけれど。
世間的に良くないことをしている自覚はある。ただ、罪悪感はあまりなかった。それよりも。

(俺ってばいつからこんなはしたない子になっちゃったんだか)

そういう思いの方が大きかった。
だからと言って止めようとは思わないのだから、いよいよ自分は落ちていくだけらしい。
とりあえず、このままでもいられない。いつのまにか寝ていたとなればとうに日付を越えているはずだ。
別に珍しくもなかったけれど、さっさとタクシー代もらって帰ろう。
正臣は起き上がり、ベッドサイドに落ちていた自分の服を拾いあげると着替え始めた。

寝室を出れば、すぐに臨也の仕事机が視界に入る。
姿は見えないが、寝室の真下にあるキッチンでコーヒーを煎れているのかもしれない。
部屋の照明もパソコンの電源も点けたままで外出したということはあり得ない。
階段を下って行けば予想通り、コーヒーカップを手に姿を見せた。

「あ、起きた?」
「………」
「気分はどう?水要るなら勝手に飲んでね」
「…ホントあんたいい加減しねばいいのに」
「いつもそれだと面白みにかけるよ、正臣くん」

そうは言いながら、つまらなさを咎めるような音は含まれてはいない。
分かっているからだ。
どんな言葉を使ったところで、この関係は崩れないと。
孤独をもて余した人間が二人、身を寄せあっているような歪な関係は、求めるものが違うが故に壊れることはない。
形は最初から壊れているのだから、これ以上壊れようがないのである。
崩れることを恐れて繋ぎ止めるための台詞をあえて紡ぐ必要は無くなり、どんな言葉も変化を促すことをやめてしまう。
故に普段言葉を駆使している男も、無駄な労力は使おうとしないのだ。
楽な関係と言えば、そうかもしれない。

「シャワー浴びる?」
「いえ。それより帰るんで、タクシー代下さい」
「あれ、もう帰るの?終電過ぎてるんだし、泊まっていけばいいのに」

口だけのことだ。毎度の言葉遊びのようなものだ。事実、泊まっていけばいいと言つつ臨也は既に財布に手をかけている。
どちらから言い出したわけではない、いつのまにかそうなっていた。
電車が動いている時間なら電車代をもらい、日付が変わり終電を逃した時はタクシー代をもらって帰る。
泊まることはない。
翌日の朝まで気がつかなかった、なんてこともたまにあるけれど、泊まるつもりはいつだってない。

「じゃあ、帰ります」

ここにあるのは何も生み出さない無益な時間だ。得るのは一時の快感と心の隙間を埋める何かだけ。
欠けた何かは、寂しいと呼ばれるもの。
これがいつまで続いていくのだろうと思う時もある。それとほぼ同時に終わらないのだろうとも思う。

「うん。またおいでよ」
「…気が向いたら」

底の見えない笑みに送られて正臣は部屋を後にした。
気が向いたらとは言ったものの、近いうちにまたすぐ来るんだろうなと思いながら。


理由は、たぶん。
自分たちが似ているからだ。










無痛な孤独を孕む















(10/11/06)
title by 濁声

少し距離感のある、淡白な臨正です。
孤独であることを寂しいと感じ、けれど素直に人を求めることが出来ない二人が、自分に似たお互いを知って関係を持っているお話です。
二人がそれ以上にならないのは、正臣が正臣でいる為の、臨也が臨也でいる為の譲歩。



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