12月、今年も1年が終わってしまうのか、と強く感じるのはクリスマスの翌日だ。

足早に過ぎてきた駅前も、大きな買い物袋を持った人々が行き交う。

どこの家庭もこの空気に押されて焦るように正月の準備を始めるのだ。

近所のスーパーに立ち寄ると、そこに並ぶのは、伊達巻、蒲鉾、数の子、それから鏡餅。

今年はのんびりと過ごせそうだ。ふたり分・・・よりも、大人数分のほうが作りやすい。

皆に振舞うか否かを考えながら、必要な食材だけをカゴに入れていく。

今夜は鍋にしよう。

総司は葱を嫌うが、煮込めば甘く、いい味が出る。

嫌な顔をされそうだが・・・。紫色のテープで2本束ねられた葱をカゴに入れた。



『僕が嫌いなの知ってて目の前で美味しそうに食べるなんて、一君って結構意地悪だよね』



「・・・・・・」



総司の反応を想像しただけで口元が緩んでしまっていたようだ。

冷凍食品のガラス扉に映った自分の顔を、慌てて逸らした。









「・・・もうすぐ誕生日だね?」

案の定、想像通りの反応を見せた総司と鍋をつついていた時だった。

それはいつ切り出そうかどうしようかと悩んだ様子など全くなく、本当にたった今思い出したかのような言い方だった。

正直、自分も年を重ねる度にあまり気にしなくなっていた誕生日。

今年は・・・確か総司がギリギリまで仕事になってしまい、ゆっくりと家で過ごした。

去年と一昨年は、土方さんの家で皆で年越しをした・・・と思うのだが。

年越しの瞬間に始まる誕生日は、必ず誰かと一緒に過ごしている気がする。

「そうだな」

またのんびりと一緒にいられたらそれで―――


「温泉、予約したんだ」

「・・・何?」

「うん、だから一緒に行こう」

「・・・何処へ」

「 お ん せ ん 」

「・・・・・・・・・」

「ちょっと一君、なにその反応。もしかして嬉しくない?僕と温泉入るの嫌?」

「ばっ・・・!あんたはまたっ!何故すぐその様な話にっ・・・!」

違うのだ、本当は。

覚えていてくれたことも。

計画してくれていたことも。

もしかしたら、思い出したように切り出したその言葉も、機会を見計らっていたのではないのかと、そう考えただけで、嬉しい。

すごく、嬉しい。

「はじめくーん?聞いてますかー?」

正面に座っていた総司が、四つん這いになってこちらに近づいてきた。

頼むから今は、見ないでくれと―――

「あー、もう・・・」

柔らかい唇が頬に触れて、全身の力が抜けそうになる。

伸ばしていたはずの背筋は多分、ほんの少しだけ曲がってしまっていただろう。

笑い声がすぐ耳元で聞こえた。

「・・・可愛い」

「っ・・・!ゆ、夕飯の途中だろう!」

「じゃあごちそうさましたら良い?」

大きな猫のような体制のまま、首を傾げるようにして、俺を見上げたその瞳から、目が逸らせないでいる。

俺の気持ちを全て見透かしたような瞳が、すっと細められた。

「・・・31日に出発ね、1日は丸一日遊んで2日に帰ってくる」

「・・・わ、分かった」

「ね、すごいでしょ?この僕がちゃんと計画立てたんだよ?一君のためだと思ったら楽しくてしょうがなかったんだ」

そうしてはにかんだ表情は、遠足を心待ちにする子供のようだ。

「あ、そうそう」

「どうした」

「部屋に露天風呂がついてるんだ、すごいでしょう」



・・・・・・なん、だと?





つづきます(2016.01.08)


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