剣道部の朝練。

風紀委員の当番。

放課後の委員会。

部活。

やっと帰宅して宿題と予習。

「毎日それじゃあ絶対つまらない」と以前言われたことがある。

自分自身で組み立てた生活のリズムをつまらないなどと思ったことはないし、飽きたと思ったこともない。

・・・ただそれは“日常”と成り始めているだけで。




日常



「・・・・・・?」

今日も、いつも通りに授業を終えて、委員会の仕事を始めたはずだった。

眠ってしまっていたことを理解するのにほんの少し時間がかかったのは、右手に感じた温もりと、見慣れた深い緑色のカーディガンと、気持ちよさそうに眠る総司が隣に居たからだ。

何故総司がここにいるのか、否、それよりも。

この状況を誰かに見られていやしないかと、伏せていた身体を慌てて起こして辺りを見回してみたが、俺たち以外誰も居ないことに安堵した。

「・・・・・・・・・」

左手に持っていたはずのシャープペンが無造作にペンケースに入っていたのは、総司の仕業だろう。

そうして、小さなため息をひとつ。

ぴたりと左頬を机につけ、俺の右手をしっかりと握り締めて眠る総司をじっと見つめた。

ちょうど、西陽が差し込むその席は、昼寝には絶好の場所かも知れぬ。

熟睡しているらしく、小さく寝息が聞こえる。

部活の時間だと呼びに来たのだろうか。だがそれも、サボりの口実だろう。

「・・・・・・、」

作業が残っているのだ、こんなことをしている場合ではないと、握られた右手を解こうとしたが、こんなに気持ちよさそうに眠っているところを起こすのも。

否、素直に眠っていてくれた方がこちらとしてはありがたいと、ペンケースからシャープペンを取り出した。


集中していたせいか、総司がいつ目を覚ましたのかも、知らなかったし、気が付かなかった。

黙っていた総司が口を開いたのは、俺がペンを置いた瞬間だった。

「・・・終わった?お疲れさま」

そう言って、机の上に伏せていた身体を起こすと、右手で頬杖をついてニコリと笑った。

「一君、随分楽しそうだったけど、そんなに委員会の仕事好きなの?」

「・・・楽しそう、とは―――」

「あ、間違えた。僕が隣に居たからか。なんて、ね?」

「何、」

総司に指摘されて知ったが、頬が緩んでいたのは、無意識だ。

理由は自分でもわかっている。

委員会の仕事よりも、ただ隣に総司が居ることが嬉しかった。それだけだ。

「馬鹿なことを言っていないで、部活に―――」

「待って待って。その前に、」

握られていた右手は、総司の指と絡まり。

背筋を伸ばした俺とは反対に、背中を少しだけ丸めて、顔を覗き込んできた総司が、何をするかなど、分かりきっている。





「・・・っ」


「ふふ、可愛い、一君。口にすると思った?」




頬に落とされたキスに、期待した自分が恥ずかしくなった。




「う、るさいっ!いい加減に手を離せっ」


「それはやだ。部活にも手繋いで行こうよ」


「ふざけるな・・・っ!」


「ふざけてなんかないよ、だってずっと、くっついていたいんだ、君と。できることなら、離れたくなんかない―――」


「総―――」



ふざけてる。

どうせするなら最初からすればいいだろう。


期待させて、心臓を騒がせて、笑顔で翻弄する。


掠めた唇。



・・・悔しい。


こんなにも俺だけが惑わされて、弄ばれて、熱くなる。



「一君、」


「・・・・・・」


「・・・一君ってば」


「・・・何だ」


「好き、だよ?」



もう一度、唇が重なりそうなその距離で。


なんてことを言うのだ。



「・・・ちょっと、嬉しいの?拗ねてるの?どっち?」




頬が緩むのを必死でこらえながら、でも、総司がくれる“好き”の言葉がくすぐったくて。




「その顔、最高に可愛いんだけど」




俺の変わらぬ“日常”には必ず、総司がいる。




「・・・さっさと部活に行くぞ」



「はぁーい」



END

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