自らを嘲笑するようなその表情に、僕はただ、顔を歪めることしかできなかった。



大きく長い溜息をついた一君の左手が、その額を覆い、クシャりと前髪を乱した。





「俺は、無力だ」




その肩に触れようと手を伸ばせば、当たり前のように拒まれた。



「守ってやるとか、大丈夫だとか・・・励ますことしか―――、それでも、あいつは笑って・・・」



ぽつり、ぽつりと、彼がこぼしていく言葉を、黙って聞いていることしか出来ない。



「俺は何をして・・・・・・、幸せに、すると・・・俺が、そう」


「一、君・・・?」


「総司、俺はっ・・・!」



今にも泣き出しそうな、震えるその声を聞いているのが辛くて。

彼の背中に手を伸ばした。




「泣いても良いんだよ?」


「何・・・」


「悲しいときは、泣かないと」


「・・・・・・っ」


「ほら、・・・誰かのために涙を流せるなんて、君はすごく、優しい」



全てを聞いたわけではないけれど、断片的なその言葉で、おそらく失ったのは恋人なんだろうなと分かった。



「悲しむことが赦されないなんて、そんなことあるわけないんだから。むしろ、泣いてあげて、彼女のために」



初めて出会ったあの日から、想像なんて出来ない、一君の泣き崩れるその姿に、僕は―――。










今日は早退したほうが良いと、無理やり彼を帰らせて、仕事が終われば一君からの着信。

何かあっただろうかと、僕は慌てて折り返した。



「もしもし?」

『・・・・・・』

「どうしたの?」

『・・・・・・』

「おーい、一君ってば」

『・・・・・・』

「無言電話なら切るけど」

『・・・・・・ま、待て』

「うん?」

『ただ・・・・・・』

「ただ?」

『何も、話さなくとも・・・、その、こうして、』

「何だ、会いたいなら会いたいって言えばいいのに」

『別に、あんたに迷惑を掛けようなどと・・・』

「・・・・・・迷惑?そうだね、はっきり言ってもらえないのはすごく迷惑」

『なっ・・・・・・』

「で?どうしたいの」



『・・・・・・少しで・・・良い。・・・隣に』



君の存在が、僕をこんなにも必死にさせる。



「・・・すぐに行くから、待ってて」







悲しみは、消せはしないけれど、癒すことは出来る。




同じ幸せは、戻りはしないけれど、違う幸せを感じる事は出来る。




だからほら、思いっきり泣いて、そうしたら、今度は、思いっきり笑ってて。




これから先、君の隣にいるのが、僕であれば良いと、願う。





君の頬を優しく撫でたのは、


温かな、









END

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