嫌な夢程正夢になる



―三郎ちゃんおはy…みぎゃぁああッ!!―

―ハハハ、君は本当に面白いね。いつも反応が楽しみで、つい悪魔喚び出しちゃうよ―

―だからっておじぎ草はやめてよぉおおッ!!うわぁああん出られないよぉおおッ!!―

―あぁ泣かないで。ほらお菓子あげるから先生を許してくれ、ポッキー好きだったろう?―

―ぐすん…ヒック……ありが…ッ!!うわぁああん噛みついてきたぁああ人食い箱(ミミック)なんて酷いよぉおおおおッ!!―

―アッハハハハ君って本当に単純だねッ!!ここまでくると可愛いよ、ほら人食い箱も君と遊びたがってるよ?―

―びぇええええもう嫌ぁあああああッ!!―


「うわぁああああああッ!!」


僕はガバッと勢いよく起きて乱れた呼吸を整え、先程のことは夢だったことに気づきホッとする。にしても三郎ちゃん(藤堂先生)が夢に出てくるとは。
あの人僕が塾生だった頃魔法円の先生だったんだけど、何故か僕気に入られて授業中でもよく弄られてたんだよねぇ。
もうそれが日課になっちゃって、同じ塾生の皆はギャグとして笑って助けてくれないし。
未だにあの人は苦手だ、小学1年生だった僕を容赦なく弄り倒して、僕が泣くのを面白がって……今でも会う度に悪戯を仕掛けてくる。
なんか僕といると素に戻れるみたいで気が楽らしいけど、僕は気が休まらないよッ!!でも何故か嫌いになれないんだよなぁ……。


「………正夢にならなきゃいいけど」


そう言って、僕は良い匂いのする食堂へ向かうべく、服を着替え始めた。







「お腹すいたー!今日の御飯はなーにっかなー♪」

セレネは食堂に来て早々にテーブルに並べられた姉の料理を見る。因みに今日の朝食メニューはお酢でサッパリ牛肉のアスパラ巻きに、たっぷりの朝摘みトマトとキュウリのサラダ、温泉卵を落とした牛そぼろご飯とシジミの味噌汁。
食べ盛りの男二人の為に普段から多めに作るのだが、昨日の件もあるので元気が出るように今朝はボリュームたっぷりだ。

「わぁああ美味しそうッ!!」
「さっき雪男も燐も別々に来て食べて行ったし、私達も食べよう」
「え、ということは其々違う所に行ったの?何処に行ったのあの二人。まぁいいや後で会うんだし、いっただっきまーすッ!!」

「おいひー!」と言って口をモゴモゴさせながら足をバタつかせるセレネに、レイは「こら、お行儀悪いよ」と言って注意する。
「はぁーい」と言いながら、小さい口にご飯を沢山含み頬袋が出来ているセレネを見て、まるでハムスターみたいだとレイは思いクスリと笑った。

「そういえば燐兄って、今日から特別カリキュラムに入るんだよね。何するの?」
「内容は知らないけど、確かシュラは……蝋燭買ってたよ」
「え?蝋燭?」


††††††††††

セレネside


「燐兄ー修行どう…「くっそぉおおおおッ!!」へっッ!?」

僕は燐兄の様子を見にトレーニングルームへ入ると、突然青い炎に包まれた。嫌ぁあああああなんなのこの状況デビャヴゥゥウウウッ!!でもこの炎優しい感じするからさっちゃんじゃなくて燐兄だッ!!

「何をやってるんだ…兄さん……」
「や、えっと……スマン」

どうやら燐兄は、ムシャクシャして感情が昂ったせいで炎を溢れさせてしまったようだ。雪兄達は下着以外が燃えてしまい、ポカーンと口を開け呆然としている。
あれ、朝起きていないと思ってたら、こんなところにいたのさっちゃんッ!!さっちゃんの服まで燃えてるよ、突然だったから吃驚して防御するの忘れたみたいだね。
炎同士当てたら相殺出来たかもしれないのに……まぁ今指パッチン一つで服元通りになったけど。

「ハッ……でも待てよ!?服は燃えてんのに中身とパンツは燃えてない!!これってコントロール出来てるってことじゃねーのッ!?」
「いや僕に至っては下着すら無くなってるよッ!!なんで僕だけ全裸にならなきゃいけないの燐ちゃんの馬鹿ぁあああッ!!」
「うわぁああごめんなセレネ泣くなぁああッ!!でもランドセルだけ残ってるから、やっぱコントロール…「いやランドセルだけ残ってるのが問題だと思うぞ燐、色んな意味で。」は?なんで?」
『全裸にランドセル……一部のマニアが飛びつくジャンルだよなァ』
「ぐすんッ…ヒック……態々言わないでよぉ…………さっちゃんのえっち……」

そう言って僕は泣きながらムスッとした表情でさっちゃんを見上げ睨んだ。…………あれ、なんでさっちゃん固まるの?獅朗ちゃんはさっちゃんの方を見て「あ、やっべ」とか言ってるし。

ガシッ

『はい連行』スタスタ
「ふぇ?」
「おい待てぇえええッ!!こんな朝っぱらから盛ってんじゃねぇよエロ魔神ッ!!」
『いやピンク頭じゃねェよ俺。つかなんだよ“えっち”って、んな顔で言われたら逆に襲いたくなるわ』
「ていうか服着させてよ、すっぽんぽんなんて嫌だよぉおおおッ!!」

なんてことを言ってギャーギャー騒いでいると、何処からかケータイの着信音が聞こえてきた。

――皆さんこんにちは、サラリーマン体操の時間が…ピッ

「はい、奥村です」
「って雪男かよッ!!なんで掛かってきた相手の着信だけサラリーマン体操にしてんだよッ!!」
「…………はい、すぐに向かいます。」

雪兄は通話を終了させ、燐兄からズボンを拝借して僕らに向き直る。てかサラリーマン体操はスルーなんだ、相手誰だったんだろう……。

「緊急召集でした。北正十字の古い集合住宅の一角が、魍魎で汚染されてるらしくて……一般人の被害者が出ているようです。魔障重症者が一人、他にも汚染者が十数人…」
「そうか、原因は?」

獅朗ちゃんはシュラ姉に自身の神父服を着せTシャツ姿になり、僕に燐兄のYシャツを着せながら問う。

「不明です、兎に角医工騎士の称号保持者は集まるようにと……シュラさんも持ってますよね?父さんも一緒に行きましょう」
「つか任務はいいけど…監督役が三人もコイツから離れるワケにゃいかないじゃん」

シュラ姉のその言葉に、雪兄は「あ…」と声を漏らして燐兄を見る。そんな二人の反応を見て僕と獅朗ちゃんは目を合わせ、ニヤリと笑った。

「「燐/ちゃんも連れて行けばいいじゃん/じゃねぇか」」


†††††††††

―正十字学園町
北正十字五丁目 集合住宅区域―


目的地へ着くと、そこには既に野次馬が集まっていた。Keep outのテープを貼ってある場所で、祓魔師が「危ないですよー下がって下さーいッ!!」と、大声で注意している。
にしても、こんな暑い日に態々集まるとは……余程の暇人だろうか。サタンなんて、猫又に戻ってセレネの肩でグダっているというのに。雪男達は人混みを掻き分けテープを潜り、腰を降ろして女性と話していた眼鏡の祓魔師に、雪男は声をかけた。

「お疲れ様です!」
「あ、奥村君。お疲れ様です」
「遅くなりました、中一級の奥村雪男です」
「名誉騎士の藤本獅朗だ」
「上一級、霧隠ずぇぇえす…」
「ついでについてきましたー!召喚騎士(サモナー)の時渉……ッ!!」
「どうもご丁寧に……ッ!!君は……」

証明証を見せる雪男達の後ろからヒョッコリと顔を出して、自分も証明証を見せようとしたセレネだが、相手の顔を見た瞬間驚きの表情に変わる……「本当に正夢になった」と。

「やぁ、久し振りだね。最近私を避けているみたいだったから寂しかったよ」
「雪兄がサラリーm…ムグッ!!」
「ハハハ、そうですか。セレネ駄目だよ避けちゃ、僕らの魔法円の先生だったじゃないか。」

魔法円の元講師、藤堂三郎太はセレネを見るなり、先程のオドオドした感じとは違い落ち着いた様子で嬉しそうに笑い、肩にいるサタンの方を見て意味深なことを呟く。

「………噂は本当みたいだね」
「へ…?」
「なんでもないよ……おや、その子は?」
「へへ、俺か?候補生の奥村燐だ!大活躍するぞ!」

燐が自己紹介すると、先程のオドオドした態度にガラリと戻り、一層挙動不審になる。

「……ッ!!れれ例の!大丈夫なんですかッ!?」
「まぁ懸念するのはもっともだけど、なんせ『法執行部』の決め事だからなぁ……離れらんねぇんだよ。しっかり首ねっこ押さえとくから、信用してやってくれ」

そう言って燐の頭をわしゃわしゃと撫で、フォローする藤本。

「説明を受けたいんだが、現場の責任者は誰だ?」
「わ、私です……私から現状の説明を…」
「まだご無理は…ッ!!」

藤堂がハンカチで汗を拭いているのを見て、隣にいる女性祓魔師が宥めるが、藤堂はそれを制する。

「せ…説明させてください。私は“最深部”部長・上二級、藤堂三郎太です」

そう強い意思で言った様に見える藤堂にセレネは違和感を覚え、ずっと目を離さなかった。


To be continued…
*H27.5/3 執筆。



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