ゆらゆらと不規則に。浮かんで、沈んで。まるで、海の中にいるみたいに。
確かにそう感じるのに、でも、それを感じている身体は自分のものじゃないみたいで。
そんな深い水底から、誰かが囁くのを聞いていた。
このままでいいの? まだ、やらなきゃいけないことがあるんじゃないの?
私の命が尽きようとしていたあの瞬間のあの声は、誰かの声であって、そして同時に私自身の声でもあった。
このままじゃ、いけない。マキナを一人きりにしたまま、私は死ねない。
そうして、死の狭間から続いた夢の中。
たどりついた終わりは、思いがけないものだったよね。
いつしか水の揺蕩いは堰き止められて、私たちの時間は闇の中で静止した。
これが、死ぬってことなんだ、と私は思った。
闇の中に浮かび上がる、私とマキナ。結びつくことも、溶け合うこともできずに、ただお互いに訪れた死を見下ろしているだけ。
私たちを隔てるのは、薄くて透明な――けれども強固な壁。
どんなに手を伸ばしても、どんなに声を上げても、それは決してマキナには届かない。
マキナの、私を呼ぶ声は聞こえるのに。
私の身体を抱く、マキナの腕を確かに感じるのに。
こんなに近くにいるのに、こんなにも遠い。
それなのに、最後の瞬間触れたぬくもりを憶えているのが、哀しい。
私の手を握ってくれた、その手の強さをまだ思い出せるのが、苦しい。
だけど、何より私の心を引き裂くのは、血を吐くように繰り返されるマキナの叫びだ。
マキナは、罪を背負おうとしている。
世界がこうなってしまったのは、すべて自分のせいなのだと。
自らの選択が、世界を暗黒と混沌の中へと導いてしまったのだと。
その罪を認め、罰を受ける。その代わりに、私を生かすことを誰かに希っている。
その口を塞ぎたかった。流れ続ける涙を、拭ってあげたかった。
私のためにそんなことを願わなくていい、私はそんな想いを注がれることを許される人間ではない、と。
ねえ、マキナ。
力を貸してくれたのは、確かにクリスタルなのかも知れない。
でも、それを決めたのは私。そうしたいと願ったのは、私自身。
世界がどうなってしまうかとか、クリスタルの意思なんて、私には関係なかった。
あなたにまた会えた、お帰りって言うことができた。その喜びだけが、私のすべてだったの。
だから、迎えたこの結末が世界に絶望しかもたらさなかったとしても、罪はマキナだけのものじゃないんだよ。
たとえマキナの願いが叶えられたとしても、マキナのいない生を選ぶことは私にはできない。
マキナと同じ罪を背負う私に、そんな奇跡が起きるとも思わない。
願うことも、それを叶えることもできない私たちだけれど、たった一つできることがある。
それは、想いを託すこと。
何者であっても、それを阻むことはできない。
生と死とが、私たちと彼らとを隔てていても、そんなものは些細なことでしかない。
だって、そうでしょう?
触れることはできなくても、直接その声を聞くことができなかったとしても。
想いは、どこまでだって届く。どこにいても、それを受け取ることができる。
死という闇に引き裂かれた、私とマキナがそうであるように。
だから、マキナ。みんなに、私たちの想いを届けよう。
罪滅ぼしにもならないかも知れない、ちっぽけで頼りない些細なものかも知れないけれど。
悔いる気持ちも、悲しみも、苦しみも、すべてを力に変えて。
本当に世界が闇に沈んでしまう前に。
それを払う光を、みんなに。
私たちにできることは、たった一つ、それだけなのだから。