I am not alone | ナノ


I am not alone

 みんな、笑ってる。

 不思議だな、とシンクは仲間たちの顔を見まわした。傷ついた身体で、消えない痛みを抱えたままだというのに、それでも楽しげに笑う仲間たちを。
 未来を、考える。考えることは自由だと言い聞かせられた時は、疑う気持ちのほうが大きかった。考えても、決して形にならないことに思いを巡らせることに、何の意味がある、と。
 そう思っていたのは、彼女だけではなかったはずだ。聡い者も、そうではない者ですら、今この現状で未来を語ることは虚しさ以外の何ものをも生み出さないことはわかっていたのだと思う。
 しかし、それを口に出す者はひとりとしていなかった。その代わりに、抱え込んだ苦しみを掻き消すように仲間たちは未来を口にした。もう戦う必要のなくなった世界に生きる自分たちに、思いを馳せて。
 語り、ふざけ合い、一緒になって笑う。まるで、世界にも自分たちにも、何事も起こらなかったのだと錯覚できるほどに。

 気がつけば、みんな近くにいてくれた。言葉には出さなくとも、泣き叫ぶ自分を守り労わってくれた。迷子になりそうだった自分の手を引いてくれた。
 どうして、自分がひとりだなんて思えたんだろう。
 今は、そう思い込んで絶望していたことのほうが、不思議でたまらない。

 いつも、みんな一緒だった。辛いことも苦しいことも、みんな一緒だったから乗り越えられた。ずっとずっと、わたしたち、一緒にいたんだよね。

 あの時も、こんな時も、と拾い上げる記憶が、なぜかすべて遠い昔のことのように思える。もはや時間の流れの概念すら、曖昧になりかけている。こうして、人は存在を希薄なものにして、やがて消えていくのだろうか。少しでも意識の焦点をずらせば、薄ら寒い恐怖がひたひたと近づくのを感じてしまう。
 けれども。
 自分は決して、ひとりじゃないということに気づくことのできた今は、その恐怖こそ何の意味も為しえない。

 ありがとう。
 わたしが、導かれたのは。わたしが、気づけたのは。わたしが、救われたのは。
 みんなが、いたからなんだよ。

「わたし、ひとりじゃなくて、よかった……」

 シンクは、天を仰ぐ。思い込みでも、強すぎる願望が見せる幻でもない、本物の光が自分たちに降り注いでいるのを感じた。
 それは、ぬくもりだった。途切れることも消えることもない、自分と仲間たちとの繋がりだった。自分たちが世界から切り離され、闇に沈んでいくのだとしても、薄れることのない、ひかりだった。

 たとえ、終わりの始まりだったとしても。
 そのひかりは、柔く優しく、穏やかに彼らを包み込んでいた。





[ back ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -