“今” | ナノ


“今”

 知らなければよかったのに。

 ジャックは、仲間たちを見まわして独り言ちた。誰一人として傷ついていない者はなく、痛みに耐えることにさえ疲れ果てている自分たち。そうなることを承知の上、自分たちは最後の戦いに赴くことを決めた。

 みんなさ、それなりに予想はしてたんだよね。今までのどれよりも、キツくてツラい任務になるってことはさ。でも、待っていた結果っていうのは、僕たちにとって思ってたよりも残酷で、冷酷で、どうしようもないくらいに怖かったんだよね。

 知らなければよかった、とジャックは再び思い知らされた。誰からも忘れ去られて消えていくことの恐怖を。その痛みを、苦しみを、悲しみを。それを知る術のなかった今までとは、何かが完全に変わってしまったのだ。
 その悔しさに唇を噛みしめていた者も、泣きながらその恐怖を拒んでいた者も、痛みに悲鳴をあげていた者も、今はそれが嘘だったかのように穏やかに晴れやかに微笑んでいる。
 もっと、足掻いてもいいのだと思う。叫び声を上げて、子供のように地団駄を踏んで、嫌がればいいのだとも。恥も外聞もかなぐり捨て、思うままに振る舞えばいい。けれども、自分たちはそうしなかった。変わったのは、他のどれでもない。変わったのは、自分たちのほうだったのだ。

 なんでかなぁ、ともう一度仲間たちの顔をぐるりと眺めたジャックは、ふと気づいた。これは、諦めなのだ、と。避けられないものをそれと認め、ただ受け入れるという名の、諦め。それが、いいことなのか悪いことなのか、それはわからない。ただその感覚だけが、ことりと音をたててジャックの胸のぽっかりと空いた穴に転がり込んだ。

 それでもさ、未来は決まってないって、そう思うのはいけないことなのかなぁ。みんなが諦めちゃったとしても、僕がそれを信じることは。だって、あんまりだと思うんだ。本当は嫌なのに、避けられないって理由だけで、すべてを受け入れるだなんて。

 未来は、決して訪れることはない。それを、自分たちはすでに知っている。けれども、自分たちの未来は決まっていないのだと、ジャックは往生際悪くそう思いたかった。
 諦めることを知ってしまった、自分よりも少しだけ大人になってしまった仲間たちの、その哀しさを少しでも軽くしてやるために。

「未来なんて、どうなってるかわかんないじゃん。だから、僕は今が続く方がいいと思うんだよねぇ」

 ジャックは言った。
 未来が訪れようが、訪れまいが、それは本当に些細な違いで。そんなちっぽけなものよりも、もっと大切なことがあるのだと。
 この瞬間、こうしてみんなで笑いあえるということ。
 決して、自分たちはひとりではないのだということ。
 そんな“今”がずっと続いていくのだと、なんの根拠もないけれど信じられるということ。
 そう、想いをこめて。





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