そう言ったエイトを、私はまじまじと見つめた。
いつでも冷静に物事を見極める彼のこと、今この時でもそれは変わることなく、その冷静さをもって考え抜いた結果の提案だったのだろう。いや、もしかしたら、苦しまぎれの単なる思いつきに過ぎなかったのかも知れない。
それでも、悲愴そのものだった私たちを変える何かが、その強い瞳には宿っているように思えた。
「これから……? これから、なんて、もう……」
涙を拭いながら、シンクが言った。
これから。
即ち、今の私たちが置かれているこの状況から続く未来。
そんなものは、どこにもありはしないのだということを、私たちはすでに知っていた。それなのにもかかわらず、訪れることのない未来を語ることに何の意味があるだろう。
私だけではない。口に出さずとも、また、意識して考えることはなくとも、自分たちに明日が来ないことは、皆がわかっていたはず。しかし誰も、エイトの提案に異を唱える者はなく、悲嘆に暮れるシンクに同調して項垂れる者もまたなかった。
その理由は何なのか。おそらくそれも、私たちにはすでにわかっている。きっと、シンクを除いて。
本当に、世話の焼けることだ。私は、密かに苦笑して息をついた。無理もないだろう。シンクは、誰よりも無邪気で、素直で、甘えたがりだった。仲間の中の誰よりも純真で無垢な彼女は、それゆえに覆い被さった闇を払うことができずに、それに両目を塞がれたまま。
導かなければ。シンクを、私たちが向かおうとしている場所へ。これから何があっても、道に迷うことのないように。最後まで、私たちとはぐれることのないように。私たちは今までも――これからだって、ずっと一緒なのだから。
それができるのはきっと、私以外にいないのだと、なぜか思えた。
「考えるのは自由ですよ、シンク」
私は、シンクを励ますように語りかけた。言葉の裏に、甘い毒を潜ませて。
そう。考えるのは、自由。たとえそれが現実では為しえない虚構の世界のことだったとしても。何の解決にもならない、ただの妄想だったとしても。シンクに――皆にひと時でも笑顔が戻るのなら。
「……うん。うん、そうだね。楽しい未来のこと、いっぱい考えよう」
何度か確かめるように頷いて、シンクは微笑んだ。きっと、彼女にも気づけたはずだ。私は、微かな痛みを胸のどこかに感じながらも、それでいいのですと頷き返した。
私たちは誰も、決して孤独ではない。避けられない哀しみや苦しみから目を背け徒に恐怖に飲み込まれるよりも、たとえ虚しい夢物語に過ぎないとしても、ともに手を取り歩み続ける道を選ぼう。
それが、私たちが自ら決めた道筋なのだから。