他人の命を屠ることに、何のためらいも感じなかったことへの。
死にゆく者たちの想いを、顧みなかったことに対しての。
『死』を、身近に感じることをしなかった、自分たちへの。
戦場に転がる、朱い軍服の骸。
あの墓地に並ぶ、無数の石碑。
級友を亡くしてその記憶を失いつつも、喪失感にうなだれる者たち。
それらは、どれもサイスの心には留まらなかった。
むしろ、不思議でしょうがなかった。
なぜ、あいつらは、簡単に死んでいくのだろう、と。
敵も、味方も、関係なかった。
生き残ることができないのは、力が無いからだ。
殺らなければ、殺られる。力無き者に、生き延びることは許されない。戦争とは、闘いとはそういうものだ。そう教えられて育って来たし、そのこと自体に疑問はない。
そして、自分たちは力持つ者だった、いつだって。
だから、自分が生み出した『死』を、まわりで繰り広げられている『死』を、どこか別の次元で起こっていることとしか感じることができなかった。
ましてや、『死』に引きずり込まれようとしている人間が、何を思うかなど。
硝煙の匂い、断末魔の叫び、降り注ぐ血の雨。
その中で、誰よりも『死』を求めた。命を奪うことに執着した。ほとんど、喜びさえ感じながら。
その自分が、今は『死』を恐れている。
ざまぁないね。
独り言ちて、サイスは嗤う。
自分の身に降りかかって初めて、火の粉は熱いのだと知った。
焼けつくような痛みなのに、それは同時に凍てつくように冷たい。
足元から這い上がってくるそれは、いつかそう遠くはない未来、この喉を切り裂くだろう。かつて、自分の武器が幾度となく繰り返したように。
その名は、『死』、そしてその恐怖。自分が消えてしまうことの辛さ。誰からも忘れ去られてしまうことの、寂しさ。
報いなのだ、と、サイスは思った。
死にたくないと叫ぶ代わりに溢れ出す涙も、その泣き顔を晒すことも、癒すことなど望めない苦しみに魂ごと切り裂かれるような身体の痛みも。
すべて、『死』を知らずにここまできた、自分への報いなのだ、と。