思考と行動の狭間で | ナノ


思考と行動の狭間で

 もともと、考えるのは得意ではなかった。
 身体を動かしているほうが、何倍も意味があることだと思っていた。
 何をすればいいとか、どう動けばいいとか、考える暇があるなら拳を突き出す方が早い。
 どこを狙えば急所を刺し貫けるか、敵の攻撃を避けるにはどこに身体を翻せばいいのか。持ち前の運動神経と、研ぎ澄まされた戦闘員としての勘が彼を動かしていた。
 自由に、思うままに動くこと。彼にとって、それが生きるということだった。

 けれども今は。
 ナインは、ぎりぎりと歯噛みしながら視線だけを左から右へと流した。
 崩れ、荒れ果てた教室。ぽつんぽつんと、瓦礫の中に仲間たちが座り込んでいる。
 誰もかれも、ぼろぼろだ。舌打ちしようとして、ナインは失敗した。水を欲してからからに乾いた喉が、悲鳴をあげたから。と、同時に思い出したように身体中が軋む。流れ込んだ血のせいで、目までがひりひりと痛んだ。

 ちくしょう。

 毒づいた声さえ掠れて、誰の耳にも届かなかっただろう。
 動かないのだ、この身体が。
 肩を小突いて、顔を上げさせて、その目をまっすぐに見て。
 へたってんじゃねぇよと、吐き捨ててやりたいのに。
 しみったれた顔してんじゃねぇと、叱り飛ばしてやりたいのに。
 そうすることが、最善だと自分の中の何かが叫んでいるのに。

 動かなくなってしまった身体は、ナインに考えさせた。
 気づきたくもなかった結論は、思いのほか簡単にナインの前に転がり出てきた。
 これが、『死ぬ』ということなのだ。
 翼をもぎ取られ、落ちた泥水の中でもがく鳥のように。
 自分は、生き続ける術を失ってしまったのだ。永遠に。

 ちくしょう、ちくしょうちくしょう、ちくしょう!

 悔しさに、震える拳を握りしめるナインは、仲間たちの声を聞く。
 どいつもこいつも、怖気づきやがって。
 嫌だ、駄目だ、こんなんじゃ。
 避けられないと決まっているのなら、正々堂々ぶつかっていけばいい。
 考えなくても、それくらいわかれよ。

「あんだよ!」

 だから、彼は叫ぶ。

「覚悟、決めてただろ」

 俺は――お前らだって。

 俺たちは、情けないだけの死を迎えるためだけに、戦ったわけじゃない。






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