それだけじゃない、涙 | ナノ


それだけじゃない、涙

 机にうつ伏せていたエースが、突然身体を起こした。うめき声を上げて何かから逃げるように腕を上げたから、アタシは思わず名前を呼んだ。

「……エース……エース、大丈夫?」

 夢でも見ていたんだろうか。ぼんやりしていた目がはっきりとアタシを見て、そして少しだけ大きくなった。そのエースが、自分の両手を見下ろしてぽつりと言った。

「そうか……終わったんだな」

 そうだよ、って、アタシには言えなかった。
 何が、終わったの。同時に、そうも思ってしまったから。
 戦争が、戦いが。そういうつもりで、エースは言ったんだ、きっと。
 でも、終わりそうなものが、もっと他にあるじゃない。
 それを、認めたくなかったんだ。

「わたくしたちも、死ぬのでしょうか」

 クイーンが、そう呟いた。
 らしいといえば、らしいよ。なんでもきちんとしてなきゃ気が済まないクイーンは、はっきりさせたかったんだ、多分。
 アタシたちみんながそう思っていて、だけど誰も口に出して言えなかったこと。
 そうやって、認めたくなかった可能性をクイーンが言いだしても、アタシはちっとも嫌な感じがしなかった。

「死ぬのって、怖いな」

 セブンが、そう言ったから。
 認めたくなくて、でも吐き出さないとどんどん自分がそこに沈み込んでいきそうで。そうなってしまいそうなことが、怖くて。
 アタシひとりがそう思ってたわけじゃなかったってことが、わかったから。

「やっぱり、痛いよ」

 ジャックも、言う。
 ほら、みんなアタシと一緒なんだ。

「うん」

 アタシは頷いた。その途端、堪えていた涙があふれ出してくる。
 泣くことができたのは、誰かと――みんなと同じ気持ちだってことに安心したから。ひとりじゃないってことが、うれしかったから。

 やっぱり、アタシはどこかおかしいのかな。
 こんな時なのに、アタシの涙は。
 悲しみや苦しみだけの涙じゃないなんて。





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