闇に惑う | ナノ


闇に惑う

 すべてを理解していると思っていた。
 なんでも知っていると思っていた。
 これまで、いつだってそう思えるだけの努力は重ねてきた。
 褒められると誇らしかったから、皆の役に立つことが嬉しかったから。
 けれども。

 クイーンは、今目の前に横たわるものを知らなかった。
 『死』というものがもたらす恐怖を、理解できなかった。
 自分たちの行く先に現れた大きな川のようなそれは、静かに深く、そして黒い。

 宙に留められたクイーンの目に、幻影が漂った。
 途切れた道。逆巻く川面。
 その前に立ち尽くす、自分と仲間たち。
 迫り来る闇、闇、闇。

 それは、洞窟の深部とも、街の片隅の路地裏とも、敵地の森の奥とも、ましてや月のない夜とも異なっていた。
 陽の光が届かないから、建ち並ぶ建物に翳っているから、木々の緑に遮られているから、ただ明かりになるものが無いから。
 理由が解れば、恐怖は消える。知識に裏づけられた、理由。それは、自分の力だった。恐怖に打ち克つことだけではない、今まで色々なことをそうやって乗り越えてきたはずだった。
 それなのに。

「わたくしたちも、死ぬのでしょうか」

 こぼれ落ちた声は、自分のものとは思えないほど弱々しかった。
 『死』とは、誰からも忘れ去られ、ただ無へと帰すだけのもの。
 その意味は、解っている。幾度となく自分の前を通り過ぎていったから。
 しかしそこから生まれる恐怖は、自分にとっても仲間たちにとっても未知のものだ。
 その闇が、自分の頭上を閉ざそうとしているこの時になって、クイーンはそれに気がついた。
 そうしてまた、クイーンは恐怖する。
 知り得ぬもの、理解できないものに、向かい合うことに。
 そして、それに自分たちが飲み込まれようとしていることに。

 今、目の前に口を開いた闇。その名は『死』。
 いくら考えても、どれだけ自分の力を振り絞っても。
 それを払う方法が、見つからない。






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