夢の終焉、現実の再開 | ナノ


夢の終焉、現実の再開

 夢を見ていた。
 あまりにも……そう、あまりにも当たり前すぎる日常。
 いつか、この目で見た現実の一場面だったのか。
 それとも、そうであって欲しいと無意識にでも願い続けた結果だったのか。
 
 独り言を呟きながら、本の頁をめくるクイーン。
 他クラスの候補生に頼みごとをされて、困り果てているセブン。
 どたばたと、教室に走りこんでくるナイン。
 それをからかう、エイト。
 おしゃべりに花を咲かせる、シンクとデュースとケイト。
 薀蓄を垂れるトレイに、耳を塞いで悲鳴をあげるサイス。
 ジャックはほとんど眠りに落ちているし、キングも退屈そうに欠伸をかみ殺している。
 やがて聞こえる、授業の開始を告げる誰かの声。

 これは、夢?
 エースは、息を殺し目を見張る。
 それとも、いつかの現実の続きなのか?
 手を伸ばせば、届きそうな。
 声をあげれば、応えてくれそうな。
 緩やかで、変化など望めそうもない、うんざりするほど穏やかな日常。
 少し前まで、当たり前だった現実の。

 境界線で揺らぐ自分を、呼び覚ます声が聞こえる。
 その声さえ、現実なのかそうでないのかの区別がつかない。
 どちらが正しいのか、しかしエースは知っている。
 覚醒するにつれてはっきりと感じる痛みが、それを主張している。
 この痛みが、自分が確かに存在する証拠。
 意識の器――切り離すことのできない、この身体の。

「そうか」

 見下ろした自分の両手。傷つき、強張り、血の跡が残っている。
 痛みをこらえ、握りしめる。

「終わったん、だな」

 ああ、ほら。
 感じる痛みこそ、動かしようのない現実。





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