あまりにも……そう、あまりにも当たり前すぎる日常。
いつか、この目で見た現実の一場面だったのか。
それとも、そうであって欲しいと無意識にでも願い続けた結果だったのか。
独り言を呟きながら、本の頁をめくるクイーン。
他クラスの候補生に頼みごとをされて、困り果てているセブン。
どたばたと、教室に走りこんでくるナイン。
それをからかう、エイト。
おしゃべりに花を咲かせる、シンクとデュースとケイト。
薀蓄を垂れるトレイに、耳を塞いで悲鳴をあげるサイス。
ジャックはほとんど眠りに落ちているし、キングも退屈そうに欠伸をかみ殺している。
やがて聞こえる、授業の開始を告げる誰かの声。
これは、夢?
エースは、息を殺し目を見張る。
それとも、いつかの現実の続きなのか?
手を伸ばせば、届きそうな。
声をあげれば、応えてくれそうな。
緩やかで、変化など望めそうもない、うんざりするほど穏やかな日常。
少し前まで、当たり前だった現実の。
境界線で揺らぐ自分を、呼び覚ます声が聞こえる。
その声さえ、現実なのかそうでないのかの区別がつかない。
どちらが正しいのか、しかしエースは知っている。
覚醒するにつれてはっきりと感じる痛みが、それを主張している。
この痛みが、自分が確かに存在する証拠。
意識の器――切り離すことのできない、この身体の。
「そうか」
見下ろした自分の両手。傷つき、強張り、血の跡が残っている。
痛みをこらえ、握りしめる。
「終わったん、だな」
ああ、ほら。
感じる痛みこそ、動かしようのない現実。