朝起きてみると、とてもよく晴れていた。雲一つない青空、風が心地よい。
窓から外を見ると、既に起きていたらしいNが草むらへと入って行くのが見えた。
朝ごはんを食べたら、僕も外に行こう。そう思って、母さんの作ったごはんを食べるために僕は一階へと下りた。
朝食を済ませ、Nと遊ぼうと外に出た瞬間、強風が吹き付けてきた。ものすごい風。空には黒い雲。さっきまであんなに晴れていたのに。

「トウヤ!」

「あ、N!早く戻れ!雨降ってくるぞ!」

僕が言うや否や、大粒の雨が降り出した。Nがダッシュで帰ってくる。
髪に水滴がついている。袖も濡れている。これは雨じゃなくて、草むらに入ったときに朝露で濡れたんだろう。

「さっきまで晴れてたのに… なんでだろ」

タオルで顔を拭いながらNが言った。
僕には一つ、心当たりがある。

「…あいつが帰ってきたんだ」

「あいつ?誰?」

「…僕のイトコ」

「いとこ」

Nは、イトコが何なのか分からないらしい。不思議な響きがこもっているその言葉を、不思議そうに呟いた。

「んー… イトコっていうのは、まぁ…親戚だよ」

「そっか。親戚か!」

親戚は分かっているようだし、細かく説明するのも面倒くさい。これでよしとしよう。

「で?なんでキミのイトコが帰ってくると、あんな大嵐になるの?」

「…N、トルネロスってポケモン、知ってる?」

「もちろん。大嵐を起こすポケモ、ン… だよね…?」

どうやらNも気付いたらしい。

「まさか…?」

「そのまさかだよ」

そのとき、階下から僕を呼ぶ少女の声が聞こえた。

「ト ウ ヤ ー !!」

あぁ、この声は間違いなく。

「トウコだ…」

僕のイトコが、トルネロスを連れてカノコタウンに帰ってきた。



     ◇



「あれ、N?なんでいるのよ?」

「トウコちゃん、キミってトウヤのイトコだったの?」

なんだかおかしな事になってしまった。そういえば、僕はNにトウコとイトコだって言ってなかった。そうだ、これが原因だ。

「ところでトウコちゃん、トルネロスを持ってるの?」

「そうよ!あたしのトルネロス。9番道路で一目惚れしちゃったの!可愛いでしょ?」

どう考えても可愛いポケモンとは言い難いんだけど、トウコのセンスは昔からこうだ。少しずれている。はっきり言って悪趣味だ。

「このせいで嵐になったんだね…」

「パソコンに預けとけば降らないのに、わざわざ手持ちにするなんて… ったく」

「いいじゃない、あたしの勝手よ。トウヤには関係ない」

「へいへい」

トウコは昔から強情で喧嘩っ早い。そして女子なのに無駄に強い。逆らわない方が身のためだ。

「あ、そうそう。暫くはカノコにいることにしたから」

え?カノコに?トウコはいつも旅が好きで、じっとしていられないのに?

「なんで?」

「Nがいるから!」

さいですか。そういやトウコもNが好きだったな。いやでも問題が一つ。

「トウコが此所にいたら、ずっと嵐のままなんだけど」

「…あ、」

「外で遊べない… ボクのトモダチ、大丈夫かなぁ…」

Nはもう僕たちの会話に飽きて、窓から外を眺めている。トウコは何も考えていなかったらしく、表情が固まっている。

「…早くパソコンに預けてこいよ」

「…うん、行ってきまーす」

トウコはトルネロスを連れて、そそくさと去っていった。
トウコが去って、空は見事に晴れた。快晴だ。まさに台風一家。

「よーし、遊んでくるー!」

Nは早速飛び出して行った。
トウコもすぐに戻ってきて、一緒に遊んだ。もちろん、トルネロスは置いてきて。
本日は、晴天なり。





(N!競争よ!)
(うん!負けない!)
(絶対勝てないだろうな)



back