Nは、円形が好きなのかもしれない。
観覧車然り、ギギギアル然り。

「歯車が寸分の狂いも無く噛み合わさって、美しいだろ…?」

以前、Nはギギギアルをうっとりと見つめてそう言っていた。正直、僕は引いた。
でもまあ、ポケモンと一緒に笑っているNは可愛い。とても。今日もポケモンと遊ぶため、外の草むらへと走って行った。
Nの人間嫌いはまだ治っていない。ゼクロムに乗ってどこかへ飛び去って一年、急にカノコタウンに戻ってきて、「遊びに来ちゃった」とへらっと笑いながら言っていたものの、その後僕の母親に会うのも少し嫌がるくらいの人間嫌いだった。もちろん、今は嫌がってはいないけれど、人見知りは激しい。人の性格は、短時間でそんなに変わることはできない。
ああそうだ。もう夕方だから、

「Nを迎えに行かないと」

小さく呟いて、僕は部屋を出た。近くの草むらにいればいいけど。Nは、すぐポケモンを追いかけてどっか行ってしまうから。
急いで靴を履いて玄関のドアを開けたら、目の前にNが立っていた。珍しい、自分から帰ってくるなんて。
「どうかした?N」

Nはなんだかおかしかった。目元が赤く、頬が上気して。これじゃあまるで、

「泣いてた…?」

僕の言葉を聞いて、Nは少しだけ目を丸くして、そしてすぐにいつもの顔に戻って柔らかく微笑んだ。そしてゆっくりと首を横に振った。

「違うよ、トウヤ。ボク、泣いてないよ」

「じゃあ、なにが…」

「ボク、気付いたんだ」

Nはそう言って、いつもの早口言葉で一気にまくし立てた。

「なんでボクが人間を嫌うのか。ボクは数学が好きだろ?それは、全てが在るべき場所に収まって、しっかり答えが出るからなんだよね。でも、人間はそうじゃない。予測不可能で、相手を好きと言ったり嫌いと言ったり、弱者を苛めたり、手を差し延べたり。正直、ボクにはよく分からない。トウヤもトウコもチェレンもベルも、ボクのトモダチだから信じてるけど、他の人はよく分からなくって、信じられないんだ。だからボクは人間が嫌いだったんだよ。世間っていうのは、きっちりしていない、狂いっ放しの歯車なんだもの。ボクが苦手なのはそのせいだったんじゃないかなぁ」

そこまで言うとやっとNは一息ついた。
Nが人を嫌う理由。それについてNが自己分析するなんて。それってもしかして、Nは人を好きになりたいのかもしれない。
そこまで考えたところで、Nのお腹からぐうぅ、と音が聞こえた。

「…あ、お腹減ったなぁ」

呑気に言うとN。そういえば、そろそろ夕食の時間だ。僕もお腹減ってきた。

「行こう。そろそろご飯だよ」

「うん、そうだね」

一日も早く、Nが人間嫌いから解放されますように。
そのために必要なのは、

「…おかえり、N」

僕らが支えてあげること。





(ただいまー)
(N、髪に葉っぱついてる)
(え?取って取って!)



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