※ヒビライ要素含


もうすぐ秋になるだろう。
だが、太陽はまだ夏が惜しいようで、暑さを振り撒いている。
ばて気味のゴースを撫でて、もうすぐ涼しくなるよ、と言った。
不意に、カランコロン、と鈴の音が響いた。
お客様かな?

「……ああ、久し振りだね。ハヤトくん」

僕が門の方に向かうと、キキョウジムリーダーのハヤトくんがいた。
珍しいこともあるものだね。
僕はハヤトくんと特別仲が良かったとか、そういう記憶は無いのだけれど。
そして、一番気になるのは。

「えらく動揺しているようだけれど、どうかしたの?」

彼の心はぐらぐらとして、落ち着きが無かった。
僕は、なんとなく、気の流れと呼ばれるものを読むことができる。
実際は、流れ、なんて分かりやすいものじゃないし、読むというよりなんとなく感じる、と言った方が正しい。
まあとにかく。僕の目の前のハヤトくんは、気が動転しているようだった。

「ちょっと、話がしたいんだが……」

「そうだね、お茶でも飲みながら聞こうかな」

取り敢えず落ち着きなよ、と言って僕は彼を家に上げた。
彼を客間に待たせて、僕がお茶を用意している間も、彼はどこか落ち着きがないように感じられた。

「…で、どうしたの」

僕は一口お茶を啜った。

「マツバ、お前確か、ヒビキと仲良かったよな…」

「うーん…そうだねぇ、アカネちゃん程ではないけれど、時々会うよ」

「じゃあ、シルバーっていう生意気な奴は知ってるか?」

「あはは!生意気ねぇ…まあ、シルバーくんは確かにちょっと生意気だね」

今、彼は動転しているというより、僕に話そうかどうか迷っているようだ。
秋の日は釣瓶落とし。
迷っている間にも、みるみる日は暮れてゆく。

「あー…、もしかして、あいつらって、その、つ、つ、」

「付き合ってる?」

ハヤトくんには悪いけれど、焦れったくなって先に言わせてもらった。
なんだそんなことか。ハヤトくんって歳の割には純情なんだなあ。
そう思ったけれど、口には出さないでおいた。

「そういう、恋愛に関することは僕じゃなくてアカネちゃんの所に行くべきだよ、ハヤトくん」

「いや、あいつはどうも騒がしくて…って、そうじゃないだろ!もっと他に言うことあるだろ!」

そう言ってハヤトくんはテーブルをバン、と叩いた。
湯呑みが危なっかしく揺れた。

「あいつら男だろ!」

「知ってるよ…人の恋路に口を出すのは野暮ってもんだよ、ハヤトくん」

そう言ったら、ハヤトくんは固まってしまった。
僕、何か変なことでも言ったかな?

「…お前は、ホモとか、レズとか、」

「そういう人だっているよ」

そうか、ハヤトくんは偏見があるのか…頑固だしね。
まあ、僕は自分に関係無いからどうでもいいだけなんだけどね。

「別にいいでしょう?君に害がある訳じゃないんだし」

「いや…でも…あいつら…」

というか、どうやってハヤトくんは彼らが付き合ってることを知ったのだろう。
ハヤトくんは恋バナが恐ろしく似合わないのに。

「ちょっと藪に入っただけのところで…キ、キ、」

「キスしてた?」

まったく…何を照れる必要があるんだか。

「だって、あんな…外で…」

「まあまあ…藪にいたんでしょ?…あ、君が気付くくらいの藪だと、他の通行人とかも気付くのかな?」

あの子たち、何してるんだか。
まあ、絶対するなって言ったらちょっと可哀相な気もするけれど、もう少し気を付けてほしいなあ。

「いやその…俺はピジョットと気持ち良く空を飛んで、ちょっと高度を下げて町を眺めていたんだが…」

「あ、空からじゃ見えちゃうのか」

「いや、そうじゃなくて…」

あれ?違った。

「その、ちょうどヒビキがシルバーを見つけて、二言三言喋ったら突然シルバーを藪に引きずって行って、気になったから覗いたら…」

「……あぁー…うん、そっか…」

それは多分。
久し振りにシルバーを見つけたヒビキくんが、我慢できなくてその場でキスしちゃったんだろうなぁ。
いや、藪に入っただけ偉いと思うよ、僕は。
会話もないがしろにして、キスしたい、だなんて。

「青春だねえ…」

まぁ、今度会ったら注意しておこう。





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