ぼく、ヒビキは今、人生で最大の壁にぶち当たっている。
好きな人ができたのだ。
いや、それは良いことだよね。
問題は、そこじゃなくて。

「……んぅ」

そう。こいつ。
ぼくの目の前で気持ち良さそうに寝てるこいつ。
赤い髪の、男の子。
どうにもぼくは、同性であるこいつのことが好きになっちゃったようでして。
初めて会った頃は、あんまり仲良くなかったというか、この、シルバーに好かれてなくて。
あ、ちょっと動いた。
身動ぎした、って言うんだっけ。シルバー、可愛いな。
…そう、シルバーに好かれてなくて、でもぼくは仲良くしたかった。
だって、せっかく歳が近いんだから、仲良くしなきゃ、って思って。
でも、たくさんバトルして、色んなことがあって。
いっぱい口喧嘩もして。
いつの間にか、仲良くなっていて。
本当に本当に、仲良くなって。
でもそれは。

「…ん、ぁ…ひび、き…?」

「あ、おはようシルバー」

「…ここは、」

「りゅうのあな。びっくりしちゃったよ。バトルしに来たらシルバー寝てるんだもん」

そう言ったらシルバーのほっぺはぱあっと赤くなった。

「…起こしてもよかったんだぞ」

「いやー、シルバーが余りにも気持ち良さそうに寝てたもんですから」

「お前はバトルしに来たんだろ!ほら、バトルするぞ!」

「はいはい。シルバーの寝顔可愛かったよ」

「な……、ふざけるな!」

仲良くなったけど。それは友達としてで。
きっとシルバーはぼくのことを恋愛対象としてみていないのだろう。
でも、いい。
ぼくは、シルバーを見れるだけで。
シルバーとバトルできるだけで。
シルバーと会話できるだけで。
それで、いいの。
だって、最初あんなに仲が悪かったけど仲良くなれて、これ以上なにかを望んだら、シルバーが離れて行きそうで、怖いから。
ああ、今シルバーがボールを放った。
男にしては長い髪が揺れる。
シルバーの腕が、手首が、すっと伸びて美しくしなる。
それはさながら異国の踊り子のよう。可憐に舞う少女のようで。
さあ、ぼくも踊ろう。
永遠に君と踊ろう。
この関係を、崩さないように。
ぼくから君が、離れないように。




(そしてまた)
(輝くその瞳を)
(ぼくに向けてよ)


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