Nと一緒に過ごして、一つ気付いたことがある。
Nは液体を怖がるのだ。
水道水はどうやら平気なようだが、ジュースは駄目だ。
以前、テーブルの上に置いた瞬間、Nはコップを右手で弾き飛ばした。
ガラスは粉々になった。鮮やかなオレンジが散った。Nは肩で息をしていた。酷く怯えていた。
ぼくはこのことを、こっそりアララギ博士に相談した。
アララギ博士は少し困った顔をして、それからぼくに笑顔を向けて、こう言った。

「それは、トウヤくん、あなたが治してあげて」

「ぼくが?」

「これは多分、心の問題だから。キミも、Nくんがキミたちとは違った育ち方をしてるのは知ってるよね」

コクリとぼくは頷いた。ゲーチスの顔が一瞬、鮮烈に蘇る。
あの、うさん臭い笑顔と、脳に痛く響く話し方。
Nへの間違った接し方。
今でもぼくは、アイツを怨んでいる。
頭に温かい手が置かれた。

「飲まれちゃダメよ、トウヤくん」

アララギ博士は優しく微笑んでいた。
それは、Nにだろうか、ゲーチスにだろうか。
おそらく両方なのだろう。
ぼくがしっかりしなきゃ。
ぼくがNを、治すんだ。

「ねぇN、遊ぼうか」

「珍しいね、トウヤからそう言ってくるなんて」

「そう、かな?」

「うん。嬉しいよ、トウヤ」



(だいじょうぶ)
(ぼくがいるから)
(だから、N、)

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