マツバは笑っていた。
溶けて消えそうな笑顔。
そうして優しく、俺やヒビキやコトネの頭を撫ぜる。
いつもそうだ。
その笑顔は、癖なのだと、マツバは言った。
俺はあるときから独りで生きてきた。
今はどうしてだろう、周りに人がいっぱいいて、ヒビキやコトネなんかがひっついてきて、独りじゃあない。
けれど、少し前までは独りだった。
大人の顔色を伺って過ごした。
他人の感情はある程度分かるようにもなった。
マツバだけは、分からなかった。
ヒビキとコトネは、何も知らずにマツバに甘えている。
ヒビキはホウオウをゲットした。
ホウオウがヒビキを選んだのだと聞いた。
誰から?マツバから。
マツバは、ヒビキがホウオウに選ばれたと、自分は選ばれなかったと知ったとき、どう感じたのだろう。
そう、真っ先に思った。
そう思った瞬間に、マツバは俺にこう言った。

「ヒビキくんは凄い子だよ。太陽みたいだよね。だからホウオウはヒビキくんを選んだのかもしれないし、別の理由で選んだのかもしれない。でもそれは、ホウオウしか知らないことだ。僕らがどうこう言っても、どうしようもないんだよ」

俺は何も言ってなかったけれど、マツバはそう言った。
さらに続けた。

「シルバーくんは、ヒビキくん好きでしょう?少なくとも嫌いじゃないよね。ヒビキくんは、誰にでも、ホウオウにも好かれる。そういう子だよ」

そう言われて、どうしてだろう、胸の奥がどきんとなった。
台詞を吐いたマツバも、言った直後に何故か目を見開いて、紫の光をゆらりと揺らした。
しばらく黙って、こう言った。

「ごめんね、そんなつもりで言ったんじゃ無かったんだ。…でもそうか、君はヒビキくんが好きなんだよね。うん、それでいいよ。好きな人がいることは、素敵なことだよ」

ここまで俺は一言も喋らなかった。
ヒビキが好きだと、このとき初めて気付いた。
それで頭がぼーっとした。
ぼーっとした頭で、マツバが憐れに思えた。
マツバ自身の意思がない。
彼の言葉は、生きていなかった。
もっと我儘になっていいはずだ、そう思った。
思っただけで、口には出さなかった。
だって思った瞬間に、彼は悲しくほほ笑んだのだ。
まるで俺が何を思ったのか、全部分かっているかのように。



―――――
ぐだぐだ…



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