トウコ視点
主♀→主♂→N


ある頃から急にトウヤがあたしに付き纏うようになった。
Nがいなくなって半年程過ぎた頃だった。

「トウコ、おいでよ」

言われるがままにトウヤに寄り掛かり、甘えるふりをしてトウヤの袖を握った。
トウヤはあたしに柔らかなキスをした。
くだらなかった。

トウヤはあたしを好いていたんじゃない。
あたしをNの代わりに愛でたのだ。
トウヤはあたしを抱き締めていてもあたしを見ていない。
あたしとキスをするときも、Nとしたキスの癖で上を向こうとする。
それでもよかった。
このままでいいと思った。
あたしはそれでもトウヤが好きだった。
小さい頃からずっと。トウヤとNが出会う、その十年以上前からずっとずっと好きだった。
だからあたしだけが気付いた。
チェレンもベルも、トウヤがNのことを好いていたなんて気付いてない。
彼らの思考回路にはその選択肢自体が存在していないのだ。
自分の幼馴染みのことも気付けない。彼らは常識と呼ばれる檻の中で憐れに過ごすしかできない。

「トウコ、どうかしたのか?」

トウヤが心配そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。
あたしのことなんて、これっぽっちも好きじゃないくせに。

「なんでもないよ」

あたしは口元にわざとらしい微笑みを浮かべてトウヤに応えた。
電波で王様なアイツなんて、



(このまま君が)
(本当にあたしを)
(好きになればいい)


―――――
トウコちゃんが乙女ちっくだなんてそんなバナナ



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