最近は見なくなったけれど、カノコタウンから旅立つ前に、よく見ていた夢がある。
奇妙でリアルな夢だった。僕が僕じゃないような夢を見ていた。
しかし不思議なことに、旅立ってからはぱたりと見なくなったのだ。
その夢は、僕が他の地方を旅している夢だった。



ある春の日、シロナさんに言われたことを、僕ははっきりと覚えている。
シロナさんは、「同じ目」だと言ったのだ。
誰と、とは詳しく言わなかった。けれど、僕はそれが夢の中の僕じゃないかと思った。僕は夢の中で、別の地方を救ってその後シロナさんと戦ったのだ。
シロナさんとまた戦うことになるとは思わなかった。相変わらず、強い人だった。



その一年後、同じく春。Nが戻ってきた日、Nは他の地方で何を見たのか、いろいろと話してくれた。一番最初に話してくれたことは、シロナさんが言ったことと酷似していた。

「ボク、遠い地方で、キミと似た人に幾人か出会ったよ」

確かにそう、Nは言った。僕と似た人に会ったと。

「最初はびっくりしたよ。なんでキミがここにいるんだろう、あぁ、これは幻だ、キミに会いたくて会いたくて、ボクが見てしまった幻だ、って思ったんだ。だけどよく見たら全然違う人だった。見た目も声も喋り方も。けど、やっぱりどこか似ていたよ」

Nはそう言った。だから僕は夢のことを、Nにだけ話したのだ。あまりに奇妙な夢だけれど、Nなら信じてくれるんじゃないかと思って。
でも、それを聞いてNが発したのは、予想外の言葉だった。

「トウヤは、他の地方で、ボク以外の人を、好きになった…?」

「…?なって、ないよ?」

そう、僕が好きになったのはNだけ。
長い旅の夢を見た。カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ。けれど、どの地方でも誰かを好きにはならなかった。ここまで旅して、初めてNを好きになった。
僕の、初恋。



確かに他の地方に、もう一人の僕はいるらしい。
けれど、僕はこのイッシュが一番好きだ。
Nがいるイッシュが大好きだ。
夢の中の僕は「好き」を知らない。
「好き」を教えてくれた、Nが大好きだ。



(いつか会いたい)
(この気持ちを)
(教えてあげたい)



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