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一番隊副長、それが***と云う女の肩書きだった。

その立場の通り***は頗る腕の立つ女で、次期隊長候補の呼び声も高かったが。


しかして女賊にありがちな粗野さも粗暴さもなく、どちらかと言えば理知的な印象を受けるに白ひげの親父もそんな***を可愛がっている。

また直属の上司であるマルコも随分と頼りにしているらしく、良くふたりで居る処を見かけた。

そんな時は大体どちらかが報告書らしき紙束を持っているのだから艶めいた光景ではないのだが、周囲は大人びたふたりの姿にお似合いだとの声を上げる。

だがそんなクルーたちの中にも***に懸想する者も居て、そのひとの綺麗な顔立ちとか柔らかな物腰とかさっぱりした性格だとか。

それこそナースと同等にこの白ひげの男たちから憧れの女性と看做されている、そんな女。

***に、実は二番隊長火拳のエースも恋をしていた。

けれど。



「なあマルコ、***って好きなやついねぇのか」



「さてね、俺とあいつは隊長と副長、それだけだ。んな話するもんか」



甲板の隅で横になりながら近くを通りかかったマルコに聞いてはみるが、返された言葉はまるで役には立たない。

何だ役立たずだな、とぼやくと軽く背中を蹴られてしまったがロギア系なので痛みはないのだ。

しかし。



「その質問何度目だと思ってやがる、エース、良い加減***に言っちまったら如何だい」



「ん、そうだな。でもよ、高嶺の花ってやつだからなァ」



「まあ確かに***はモテるよい、けど、尻込みなんざ二番隊長の名が泣くぜ。俺としちゃあ大事な副長をそこらのヒヨッコにやるんなら、オメェに早く掻っ攫って欲しいよい」



「でもなァ、」



歯切れ悪くぐだぐだとしていれば、もう一度背を蹴られ。



「ったく、俺ァ忙しいんだ、もう行くよい」



こつりと響いたマルコの靴音、その向かう先には件のひと。

甲板に横になりながらさり気無さを装ってずっと見ていたその綺麗な姿は備蓄倉庫の入り口で一番隊のクルーらに指示を出していて、見るからに忙しそうだ。

そして。

その傍らに並んだ、さっきまでエースと話をしていたマルコ。

***はすいと貌を上げて何かを淡々と報告したようで、マルコから何言かを返されれば微か綻ぶ吻。

その淡やかな吻が他の誰かを好きだと言う場面を想像してしまって感じた胸の痛みに、エースはひとつ溜息を零した。

















いつの間にか寝入っていたらしい。

眼を開けてみれば空は夕暮れ色で、そろりと視線を遣った備蓄倉庫前には***は愚か誰の姿もなかった。

エースは何だかつまらないような感覚に陥っては腹の力だけで身を起こして、ばりばりと頭を掻いて誤魔化した。

そして。

腹の虫の知らせでそろそろ夕食の時間だと云う事を悟っては立ち上がって歩を進め、倉庫前を通り過ぎて船内へ降りようかとした時だった。

備蓄倉庫の影、さっきまでエースが寝ていた場所からは死角になっていた其処にふたつの姿。

それは、マルコと***で。



「ところで***、オメェも素直じゃねぇな。あんなに見てんなら、言っちまったら如何だい」



「突然ですねマルコ隊長、嗾けて何がなさりたいんですか」



「見ててじれったいだけだよい」



「ご存知でしょうに、私は臆病者なので、素直に好きだなどとは言えませんよ」



盗み聞きするつもりは、屹度なかった。

ただ、そのひとの声がエースの脚を止めたのだ。

そして。

その***の声で以ってなされた好きと云う言葉に、エースはふたりから身を潜めて聞き入ってしまう。

誰を、好きなのか。

ずっとエースが好きだったそのひとが、誰を好きでいて告げられないのか。

ごくりと、咽喉を鳴らして次言を待って。



「あいつは、ひとの好意を無碍にするような男じゃねぇよい」



「マルコ隊長、知っておられるでしょう。私は安全牌しか引かない人間です。そう仰られても、動けませんよ」



「賢過ぎるってのも、困りもんだねぇ。伝えちまえば喩えフラれても、案外楽になれるかもしれねぇよい」



「それでも、ですよ。それに私は楽になれたとしても、こんな無骨な女からの好意なんてものはあちらは困るだけでしょう。ナースの方たちのように綺麗ではありませんし、面白味の無い女ですから」



「で、結局如何するつもりだい」



「元々色恋沙汰は不得手なので、好きだなんて、エース隊長に言うつもりはありませんよ」



聞いたそれに、一瞬息が止まった。

そして。



「まあ、オメェがそう決めてんなら俺ァこれ以上言うつもりはねぇよい。悪かったな、引きとめちまって」



ひらひらと手を振ってその場を去るマルコ、一瞬だけ物陰のエースへと向けられた視線は意味深に細められ。

屹度気配で気付いては、敢えて***にその話を吹っ掛けたのだろう。

もどかしいエースと***の双方をじっれったく思った面倒見の良いマルコのそんな気使いに、エースは軽く手を上げて礼をして。

その背が、完全に船内へと消えたのを確認した瞬間。

するりと音もなくに出ていっては、背後からその痩躯を腕に抱いて。



「なッ、」



「***、」



「エース、隊長、」



振り向こうとしたそれを力で以って押し止めてはその白い首筋に鼻先を埋め名を呼べば、エースだと認識して途端に凍りついたそのひとの。

屹度混乱と動揺の渦中に早鐘となってしまったのだろう心臓の音を腕に感じながら、エースは笑い出したい衝動だけは何とか抑え。



「誰が、好きだって」



「な、どこから聞いて、」



「ん、さあ、どこだったかなァ」



「、エース隊長」



なあ***、と潜めた声をその耳に囁いて。



「俺は、***が好きだ」



そのひとが息を呑む姿に、滲む嬉しさのまま。



「言えよ、俺が好きだって」



懇願とも命令ともつかない言葉、更に抱きしめる腕の力を強めて。



「好きって言うまで放さなねぇぜ」



言ってくれ、言って欲しい。

御前が好きだ。

御前も好きなんだろ。

背後から抱いた身体を雁字搦め、腕に閉じ込めては囀りを鼓膜に垂れ流した。

すると。



「エース隊長、」



喘やかにも聞こえるその声音で名を呼ばれ、見たそのひとの貌は朱を引いて。



「言えよ、ほら」



性急に促しては、本当は知ってしまっているその先に在る言葉に喜びの余りくつくつと笑ってしまう。

そして。



「エース隊長、私は、」



そのひとの綺麗な吻から欲しかった言葉が零れたのは、三秒後の事だった。



end.

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