▼03


とある昼休み。
「カーイト。一緒に食堂行こうよ!!」
砕牙が同じクラスの海斗に話しかける。
「めんどくせぇ。」
開いていた教科書を閉じて、海斗がうんざりという様子で返すと砕牙は、
「一緒に行こうよ〜。…ジュースおごるからさ。」
「……やだ。」
「一瞬揺らいだなコノヤロウ。」
「…ジュース1つぐらいで動く俺じゃねぇ。」
「ちぇ〜…。あ、そうだ!!」
いきなり両手をパンッと叩く砕牙。その音にクラスにいた若干数の生徒が二人に一瞬注目した。
「……なんだよ。」
体ごと砕牙の方を向いて、話を聞く体勢に入る。
「今日はいっちゃんしーちゃんとお昼食べるんだって。」
「…まぁ、姉妹だしフツーだろ。」
「でもしーちゃんは保健室の当番なんだって。」
にこにこ、というよりはにやにやとした笑顔を浮かべる砕牙に、海斗は眉間を抑えた。
「……何となく何が言いたいかわかったが、一応言ってみろ。」
「一緒に保健室でおひ」
「却下、だ。」
「えー…。てかまだ最後まで言ってないんだけどオレ。」
「保健室で如月姉妹と飯食うだとかそんなことだろ。」
青というより水色に近い眼を少し開いて、瞬きを2回。そして首を傾ける砕牙。
「うえ?違うよ〜。」
すると今度は海斗が海色の目をぱちぱちとさせた。
「…じゃあ、なんだ?」
「うん。一緒に保健室でお昼寝しようよ!!って。」
名案だと言わんばかりに満面の笑みで人差し指を立ててみせる砕牙に、海斗は深いため息を吐いた。
「……砕牙。」
「うん?」
「お前馬鹿だろ。」
「イェスッ、ザッツライト!!」
「ああ、ダメだこいつ。」
「というわけで行こうよ!!」
「はいはい。行けばいーんだろ、行けば。」
「よくわかっていらっしゃるね!!」
「伊達に3年も付き合ってねぇよ。」
「え、オレ等付き合ってたの?」
「意味がちげぇから。」
なんだかんだで砕牙に甘い海斗であった。



一方如月姉妹はというと……。



「しぃちゃん、今日砕牙先輩たち来るかなぁ〜?」
「うー…ん、…絶対、来ると思う…よ?」
保健室で書類に向かっていた椎名が伊月の方を見て困ったように笑った。
「え、なんでなんでなんでー!?」
「だって、五十嵐くんって藤井さんに甘いもの。」
「……、そう…だね。」
椎名から見えない位置で、伊月はぎゅっとスカートを握った。
「し、しぃちゃんはさ、海斗…達の事、どう思ってる?」
「どう…って?」
きょとん、と伊月を見つめる椎名。
「あー…、んっと…砕牙先輩マジざまあ(笑)とか、砕牙先輩うぜぇとか…まあ、色々。」
「ふふっ、いっちゃんは藤井さんの事ばかりね。」
そう柔らかく微笑めば、伊月は視線を泳がせて小さく何かを呟いた。
「…んー、そうねぇ。……藤井さんは、とっても面白い人だと思うよ?たまに何を言ってるのかよくわからないけど。…うん。」
少し俯き加減で言葉を探しながら話す椎名。
「あ、でもお付き合いするのはどうかと思うよ?」
「……はい?」
姉の発した言葉にひきつった顔になる伊月。
「うーん、なんていうか……恋愛対象、っていうのとは違う気がするんだよね。」
「……?」
「あ、でもその点でいうと五十嵐くんはいい彼氏、っていうかいいお父さんになりそうだよね!!」
「ブッ!!」
唐突もない椎名による海斗の未来予想に、伊月は思わず噴き出した。
「お、おとうさんて。なんでいきなりすっとんじゃうの?」
おなかを抱えながら涙目になった眼をこする伊月を見て、椎名はのほほんと微笑した。
「だって、今の時点で藤井さんのお母さんみたいじゃない?」



「カイト……。」
「………。」
「……おか」
「シメるぞ。」


実は保健室の前まで来ていた砕牙と海斗は、如月姉妹の会話をばっちり聞いていたのだった。


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椎名ちゃんはおっとりな天然ちゃんである。
110521






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