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待ちに待った夏休みということで学生たちはもちろん、街自体もどこか浮足立っていて暑さをものともせずに活気づいていた。
そして例に漏れず浮かれる学生が此処にも2人……。
「カイト!!図書館行こう!!」
「海斗、涼みに行きますよ!!」
「………お前ら帰れ。」
時間は早朝6時。真面目ないい子ちゃんや地元好きの子は起きてラジオ体操に行っている時間。…世間一般的には大半がまだ夢の中であろう時間帯である。
自称一般人の海斗ももちろん夢の中であったのだが、永続的にリズムよく鳴らされるインターフォンに渋々起き出してドアを開ければ…朝一で相手をするには単品でもキツイお祭りコンビもとい、元気なことに定評のある砕牙と伊月が満面の笑みで立っていたのである。
寝癖を直すどころか包帯すら巻いていない海斗は無理矢理起こされたこともあり、盛大に顔を顰めた。それでも無言でドアを閉めないあたりが彼の最大限の優しさである。
「夏休みは朝7時から図書館が開いてるんだよ!!だから一日中図書館に椅子割られるよ!!」
「そうですよ!!涼しくて快適な図書館に長時間居座れるのは魅力的じゃないですか!?」
勢いに負けて2人を部屋に招き入れながら心底どうでもいいお誘いを右から左へ流す海斗。
適当に相槌を打ちながら完全に覚めてしまった脳に内心舌打ちをしながら、洗面所へと足を向けた。そんな海斗を見送りながら砕牙は何の迷いもなくキッチンへと向かった。
「どうせなら夏休みの宿題とかは7月中に終わらせちゃお〜って話になってね、それでどうせなら皆でやりながらの方が苦手のもやりやすいかなって。だからみんなでお勉強会しましょーってことなんだ。」
冷蔵庫から食材を取り出してキッチンに広げる砕牙をしり目に、伊月は砕牙に言われるがままにトースターをセットした。
「…で?なんでお前らは開館の1時間前に俺ん家に来てんだ?」
歯ブラシ片手にやってきた海斗に伊月が笑いかける。
「せっかくなんで海斗ん家でモーニングしようかと。」
「帰れ。」
「だが断る!!」
ドヤ顔で威張る伊月にチョップを落とした海斗だったが、真剣白刃取りの如く止められてしまった。そのことに更に得意げに口角を上げる伊月に、取られた手に力を込めてそのままチョップを遂行した。
「うう…止めたのに卑怯ですー。」
「自業自得だ馬鹿。」
頭部を擦る伊月に溜息を吐いて何やらいい匂いのするキッチンの方に体を向ける。
「……バ海斗のくせにー…。」
「何か言ったか?」
「いいえ!!なにも!!」
背後でぼやいた伊月の言葉を持ち前の地獄耳で聞き取り振り返れば、伊月がきっちりと敬礼をしていたので数秒眺めた後キッチンへ近づいた。

「オムレツ〜、ふわふわぁ〜、い〜い、におい〜だ、な〜。」
自作の即興ソングを口ずさみながら上機嫌でフライパンを操る砕牙に、歯を磨きながら近寄る。
「お。寝癖直してきたかいカイト。」
近寄る海斗に目もくれずにそう質問した砕牙に、海斗はシャコシャコと歯ブラシを動かしながら否定をするように唸った。
「もうちょっとで出来るよっ。ミルクとコーヒーとオレンジジュースあるけど……どうする?」
ポテトサラダとトマトが添えられた皿に、出来立てのオムレツを乗せる。簡単でポピュラーな朝食の完成である。
「んふんん。」
「リョーカイ。口洗ってきなよ、その間に並べとくから。あ、いっちゃーん。トーストにマーガリン塗っといて〜。」
「了解っす。」

テーブルに並べられたおいしそうな朝食に、無意識に心が軽く弾む。
「はい。海斗はカフェオレね。」
「おー。」
「いっちゃんはオレンジジュースでよかったんだよね?」
「はい。砕牙先輩はコーヒーっすか?」
「まあね〜。朝はコーヒーじゃないとシャンとしなくて〜。」
うへへと気の抜けた笑い声を漏らす砕牙をよそに、海斗が席に着いて両手を合わせた。
「いただきます。」
「あ、いただきます!!」
「召し上がれ〜。で、オレもいただきますっと。」
本日の朝食、オムレツにウィンナー、ポテトサラダ。それとトーストである。
「ん〜!!このオムレツマジウマです!!中にチーズ入ってるとかサイコーですね!!」
「メルシー。オレはオムレツより眼球焼き派だったらどうしようかと…。」
「がんっ…!?」
「…目玉焼き。」
「ああ、うん。それそれ。」
「眼球焼きとか怖すぎですから!!」
「目玉って眼球でしょ?同じじゃない?」
「目玉焼きっつーのは本来卵2個でやるんだが、それが目玉みたいだから目玉焼きっていうん、だったんじゃないか…?」
「いや、あたしが知る訳ないでしょーよ。」
「………。」
「その、それもそうだなみたいなみたいな頷きがむかつきます。」
「知るか。」
「ポテトサラダおいし~。」
「昨日のあまりだけどな。」
「え、海斗の手作りなんですか?」
「そりゃあ…俺だって一人暮らししてんだから料理ぐらいするっての。」
「いやいやいや。料理するのは解りますけど……もっと、こう……男の料理!!みたなのかと…。」
「どんなイメージだコラ。…まあレシピ通りに作っただけなんだけどな。」
「でもおいしいよ。今度そのレシピ見せてね。」
「おう。」
「なんであたしより女子力高いんっすかここの男子高生は…っ!!」
「…今の墓穴だろ。」
「…ベンチ?」
「それは補欠。」
「別に悔しくなんてないですから!!あーあー!!今日もご飯がおいしくて何よりですねっ!!」
「ご飯じゃなくてパンだよいっちゃん。」
「……砕牙、察しろ…。」



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海斗と砕牙はお料理上手な男子。
でも一番料理上手は白さん!!
130125







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