▼08


「んんーっ!!今日も学校終わった―!!!」
疲れたーと両腕を伸ばして反り返る砕牙。
「疲れるって…授業中寝てたくせによく言うぜ。」
「うはー、見られてた…。」
「クラス全員見てた。お前のでけぇ寝言のせいでな。」
「え、砕牙先輩何言ったんですか!?」
「……言いたくねぇ。こいつのせいで俺の信用はガタ落ちなんだからよ。」
「大丈夫っすよ。元々信用ないですから!!」
「どういう意味だアホ伊月。」
「そのまんまの意味ですバ海斗。」
「もう、二人とも喧嘩しないでください。」
いつものようにじゃれ合いというか一触即発いうか…という感じの4人組。

「あ、せんぱーい!!」
と、4人の背後から誰かが声をかけた。
「ん?」
「あぁ、堀内か。」
「ちわッス!!五十嵐先輩は今日バイトッスか?」
爽やかに挨拶してきたのは1年の堀内ルイ。海斗のバスケ部の後輩だ。
かわいい系の顔で、紫色の髪は一部がとんがっているという不思議な髪形をしている。
「ああ。お前は?」
「俺は今から買い出しッス。マネージャーが全員風邪引いたらしくて……大丈夫ッスかね?」
不安げに眉を下げる堀内に海斗は
「……お前、また騙されてるぞ。」
「え?」
「…マネージャーたち、確か合コン行くって前に話してただろうが。」
堀内少年はバスケ部内で、騙されやすいことで有名である。
「…なんだぁ。風邪じゃないんッスね!!よかったぁ〜。あ、それはそうと五十嵐先輩、聞いたッスよ!!」
「ん?」
安堵して笑みを作ったかと思えば、いきなり真剣な面持ちになった堀内。
「ルイ君、何聞いたの?」
砕牙が堀内の肩を叩けば、
「師匠!!五十嵐先輩とデキてるってやっぱり本当だったんッスね!?」
がしりと、自分より高い位置にある砕牙の肩を掴んで少し泣きそうになりながら、叫ぶようにそう言った。
「ぅえ?ってか、はあっ!?ナニがナンでどうなの、それ?」
砕牙も堀内の肩を掴み、傍から見ればフォーリンラブとでも言いだしそうな雰囲気である。
「だって師匠が…授業中の寝言で……あんなっ!!!」
今にも泣きだしそうに視線を斜め下へと背ける堀内。
「えー…と。オレ、寝てたし…なんて言ったか覚えてないんだけど?」
「っ、キャプテンが師匠の寝言を録音してたんで……後で送りますっ!!」
じゃあ、俺買い出しがあるんで!!と颯爽と張っていくバスケ部員、堀内。
「堀内、釣り銭は募金するなよ!!あと領収書じゃなくてもレシートはちゃんととっといて顧問に渡せ!!いいなっ!!」
「了解ッス!!」
そう言って走り去る堀内氏の背中を見つめて、海斗は盛大にため息を吐いた。

「…なんなんですかあの嵐みたいな人は。」
伊月が若干引き気味に海斗に聞けば、砕牙が
「彼は1年の堀内ルイ君。オレの弟子だよ〜。」
ヘラリと砕牙が笑えば伊月がうんざりしたように鼻で笑った。
「砕牙先輩の弟子になるとか…物好きっているんですね。」
「…カイト、オレなんだか胸が痛いよ。」
「正常な反応だ。よかったな。」
「まあそんな砕牙先輩は置いといて、堀内君?って何者なんですか?」
「私も気になります。お二人ともが別の人とも仲良くしてる所って珍しいですし。」
「……しーちゃん。何気にオレ達に友達がいないって言ってない?」
「……俺もそれは思った。」
「あ、いえっ!!そんなつもりではっ!!!」
両手と首をぶんぶんと振って悪気化無かった事を表す。
「…でも結構事実じゃないですか?」
友達が少ないのって。と伊月が言えば、海斗は一瞬詰まって視線を反らした。
「そういうお前らはどうなんだよ。」
「あたしは結構多いですよー?クラス全員のメアド知ってますし、生徒会の面々とも仲良しですしね!!」
伊月がそう言えば、砕牙がねー?と伊月に笑いかけた。
「砕牙先輩は生徒会メンバーのグル―プにいれてないですけどね。メアド。」
「う。プチショックー…。」
がっくりと肩を落とせば椎名が笑った。
「藤井さんはいつものメンバーの方に入っているんですよ。」
「ちょ、お姉ちゃん!!」
「うわ、なんかフツーに嬉しいんですけど。」
「なっ、ちょ、砕牙先輩っ!!まじで照れないで下さいよ、こっちが恥ずかしくなるじゃないですか!!!」
二人して赤くなってる砕牙と伊月。そんな二人をしり目に海斗が椎名に聞いた。
「あー……如月は?どうなんだよ。」
「私は…保健室によく来る人とはそれなりに会話しますけどそんなには……という感じでしょうか。どちらかと言えば先生方の方がよく話してますね。あと委員会の関係で色々…ですね。」
私も多いとは言えませんね。と苦笑をこぼす椎名。そこへ赤みが引いた伊月が声を発した。
「そういえば砕牙先輩はどうなんです?女子がいっぱい群がってる所はよく見ますけど。」
「うー…ん。あの子たちはお友達…だよ?」
困ったように首に手を当てて苦笑いをする砕牙。
「……それって図書館の彼みたいな感じなんですか。サイテーですね。」
「いやっ!!友達、フツーに友達!!お茶したりショッピングしたりなんだりするだけだから!!!」
「……それってデートなのでは?」
「あーいや、そんなことはないと思いますですよ!?」
「……焦ってると余計に怪しいぞ。」
「砕牙先輩サイテー。」

三種三様に責め立てられ、砕牙は狼狽えたように視線を動かしたと思うと両手を頭の上まで持ち上げて、降参のポーズをとった。
「しょーじきに話します。」
はぁ、とため息を一つ落として胸ポケットから赤いスライド式のケータイを取り出した。
「これ、オレのケータイね。」
「…?。藤井さんケータイ変えたんですか?」
と、首をかしげる如月姉妹をよそに、海斗はひとり納得したようにあぁ、と零した。
「そういう…。」
「カイトはし知ってるよね。こっちのケータイ。」
砕牙が問いかければ、さも当然というように頷いて見せた。しかし如月姉妹にとっては何のことやら状態なので、伊月が挙手した。
「はいはーい。砕牙先輩のケータイって黒のパカパカじゃないんですかー?」
黒いパカパカ…もとい折り畳み式のケータイを愛用しているはずだと伊月が言えば、ズボンのポケットから黒い折り畳み式のケータイを出した。
「そ。普段はこっち使ってるよ。んー……これはいわゆるプライベート用ってやつ。」
と黒いケータイを少し上げて見せた。
「んでもって、こっちが……ビジネス用?みたいな感じ。女の子たちは大体こっちに入ってんの。」
そう言って今度は赤いケータイを持ち上げて見せた。
「……つまり普段群がってる女子は仕事相手的なあれですか?」
「えっと…うん。まあそんな感じ。」
へらりと笑えば伊月が顔を顰めた。
「仕事ってどんなんですか。」
伊月がそう聞けば、砕牙は困ったように笑うだけで何も言わなかった。
「……ま、平たく言えばホスト的なあれだ。」
横から海斗がそう答えれば、伊月は納得がいかないと言ったように海斗に詰め寄った。
「なんで海斗先輩は知ってるんですかー。」
「…付き合い、長いからな。」
「そういえばお二人は一年生の時からのお友達なんでしたっけ?」
椎名が問えば、砕牙がこれでもかというくらいの満面の笑みで海斗の肩を組んだ。
「お友達だなんて生臭い!!カイトとオレは大☆親友なんだよ!!」
「……生ぬるい、な。」
頬を少しかいて、満更でもない様子の海斗。
「うわー。ホモですか。同性愛ですかうわー。」
伊月が二歩後ろに下がれば、椎名が伊月の手を握った。
「ダメだよ伊月ちゃん。偏見はよくないよ。…私は二人がど、どんなご関係でも、ともだちで…い…たいです。」
「如月、激しく誤解だし無理するな。」
「……すみません。現実を受け止めるのに時間がかかりそうです。」
「まずそこから多大なる誤解だ。」
如月姉妹の中で砕牙と海斗が×で結ばれた瞬間だった。
「砕牙、お前も否定してくれ。」
「うえ?オレとカイト仲良しじゃん。」
「ぐっ。お前のそういうところが嫌いだ。」
「ええっ!?ヤダヤダ。カイト、オレの事嫌わないでーっ!!」
「きゃー、ゲイだー。変態だー。」
「ひっつくなああああああ!!!!!」
「あ、メールだ。」

海斗に抱き着いていた腕をあっさり離し、着信音が鳴っていた黒いケータイを開いた。
「あ、黒い方ってことはあたし達も知ってる人ってことですか?」
黒い方がプライベート用、自分たちの知ってる方ということは、自分の知ってる人が登録されてるのではないかと予測した伊月。
「んー、たぶん。お。ルイ君だ。」
「ルイ…。堀内か。」
「あ、れ?…伊月ちゃん?」
「ん?どうかしたのお姉ちゃん?」
さっきまでの同性愛騒動は何処へやら。まるで何事もなかったかのように会話に入る伊月と海斗。そのことに動揺を隠せない椎名。
「えっと…?」
一体何が何やらと、ひとり把握しきれていない椎名に、海斗がわかりやすく教えてやる。
「何ぼけっとしてんだ?さっきのはただの悪ふざけだろうが。…置いてくぞ。」
下校中、歩きながら先ほどの会話を続けていたので、困惑して歩みを止めてしまった椎名は必然的に三人から少し離れてしまっていた。
「ぇあ!?ま、待ってください!!」
椎名が急いで駆け寄れば、砕牙が添付ファイルを再生したところだった。

「んんっ!?なにす…カ…イト」
「カイ…ト。オレのっぁあ!!」
「だめっ、そんないっぱ…。」
「も、たえらんないよぉっ!!」
「カイトの…ちょぉ、だい。」
「おい、しっ…カイト…の。」
「おねが…もっ、とぉ…っ。」

ピピッと再生を終えた音を聞いて、4人は固まった。
「……どこのAVですか!!」
伊月が真っ赤になりながら砕牙から離れると、砕牙は思い出したとでも言うように、ケータイを握りしめていた手を左手のひらに落とした。
「あ、そうだよ!!オレ、カイトに食べられたんだよ!!」
「さらに誤解を招くな!!!!」
自分の腕を抱きしめて砕牙から距離を取る海斗。
「や、やっぱりお二人は…。」
目に見えて青ざめる椎名に、海斗が誤解だと叫んだ。
「一体全体何でこんな寝言になってるのか説明してください!!!」
スクールバックで砕牙との間に壁を作りながら伊月が聞けば、砕牙は顎に手を当てて記憶を辿るように視線を上げた。
「んー…っとね、ケーキ食べてたら、カイトが目の前でいきなりオレのケーキを奪って食べたの。そんでおいしそうにどんどん食べてくから、もう我慢できなくなって、カイトの持ってたケーキちょーだいって奪って、それがすっごくおいしかったの。でもすぐになくなっちゃったから、カイトにもっとちょーだーいって。」
そんな夢だったのー。とふにゃりと笑う砕牙。
「てんめぇ……。お前の寝言のせいでなぁ、こっちはクラス全員から変な目で見られて、男子からは告白されるし女子からは異様に熱のこもった眼でいろんな質問されるし、教師からは可哀想なものを見るような目で見られたんだぞっ!!!!」
よっぽどその対応がきつかったのか、若干涙目な海斗。
「……海斗、ドンマイ。」
「が、がんばって五十嵐くん!!」
「同情なんかいらねええええええっ!!!!」
もはや泣きたい海斗であった。
「だいじょーぶだよ。周りからなんて言われようとオレはカイトの味方だから!!」
「今この状況でのお前のその発言が俺にとって一番辛いんだよぉっ!!!」

五十嵐海斗、彼に幸あれ。

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砕牙と海斗ならなんでもありだと思ってる←

111029





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