▼02


「ふぁ、あぁぁ…。」
大きな欠伸を一つこぼして歩く包帯を巻いた金髪頭。彼の名前は五十嵐海斗。図書委員を務めるバスケ部の青年だ。
彼が何故こんなにも眠そうにしているかというと、明け方まで生徒会の書類を片付けていたからである。
鈴高こと鈴音高校の生徒はなかなかに個性的な生徒が多く、生徒会となればさらに選りすぐりの個性派ぞろい。一癖も二癖もある連中なので先生方も手を焼いている。自由奔放な会長を筆頭に仕事をしない者が大半を占めている。そのせいで一般役員の彼のところにまで生徒会の仕事がまわって来るのだ。
本来彼の仕事ではないのだから、やらなくてもいいのだが……如何せん彼は真面目気質なので、職務に滞りが出ることを嫌い、まわってきた仕事を徹夜になってまでも処理してしまうのだ。

そんな海斗は今日も今日とて徹夜明け。二日も寝ていない疲れ切った脳に、飴の甘さが優しい…。

「カイトー!!」
そんなの海斗の背後から能天気な声が……しかし鈍った彼の脳には届かなかったもよう。
「お、は、よーっ!!」
「ブッ!?」
ドーン、という効果音がしっくりくる突進。あまりの衝撃に、海斗は銜えていた飴を吹出し、前方へ傾いた。
「っと、と。」
傾いた体を支えるように、海斗の腹部に腕が回される。
「ダイジョーブ?」
間近に聞こえた声にふり返れば、そこにいたのはハネまくった金髪を数個の可愛らしいヘアピンで留めている、へらりとした笑顔。
「てんめ、この砕牙!!」
海斗が怒鳴り散らせば、砕牙こと藤井砕牙は両手を顔の隣まで持っていき、降参のポーズをとった。
「オレ流のスキンシップじゃんか〜。そんなに怒っちゃヤ・ダ。」
もうそんなに熊つけて〜といたって余裕の砕牙。
「お前のせいで最後の飴がダメになったんだよっ!!あと熊じゃなくて隈だ隈。」
至近距離で向かい合い、砕牙の額をぐりぐりと指で押す海斗に、砕牙は苦笑いを返した。
「うはっ、食べ物の恨みはオソロシア〜ってやつか。」
「……わかってるなら話が早い。俺は徹夜明けで糖分足りなくてイライラしてんだよなっ!!」
「うぎゃぁっ!?」
砕牙の首に片腕を回し、もう片方の手を拳にしてこめかみをグリグリと押し付けて攻撃する海斗。
「徹夜明けで糖分とられた恨みぃっ!!!」
「ギブギブギブギブ−ッ!!」
バシバシと海斗の腕をたたく砕牙。そんな二人の背後に声がかかる。

「ふふっ、朝から仲がいいですね。」
「おはよーなのですよ。」

「うよ?」 「あ゛?」
振り返った二人が見たのは、薄紫の髪を靡かせながら微笑む少女たち。
「…如月姉妹。」
海斗がそう零せば、砕牙が目を輝させた。
「しーちゃん、いっちゃん!!オタスケ〜!!」
腕をたたくのを止めて如月姉妹こと如月椎名と如月伊月に手を伸ばした。
「砕牙先輩ファイトですよ!!」
「助けてよっ!?」
「女の子に助けを求めるのはなさけないよー?」
「いっちゃんがなんだか辛辣っ!!」
両手で顔を覆って泣いたふりをする砕牙の姿に、椎名が苦笑して海斗を見た。
「五十嵐くん、藤井さんをあんまりいじめちゃだめですよ?」
めっ、と人差し指を海斗に向けると、海斗は溜息を吐いて砕牙を放した。
「……ふん。」
「いやぁ〜。タスカッタ、タスカッタ。さすがしーちゃんマジック!!」
海斗から解放された砕牙は、人差し指を立ててくるりと振った。
「それにしても五十嵐くん、今日はいつも以上に荒れてますね…。」
「あれー?しーちゃんまで辛辣なの?今日は皆デレない日なの?」
「砕牙先輩ざまあ(笑。」
「いっちゃああああああん!!?」
「あはははははは。ドンマーイ。」
「何この子!!なんなのこの子!!!今日は特別機嫌悪いの!?それともオレ何かした!?」
うああああと頭を抱えて左右に振りだした砕牙に、伊月が笑いかけた。
「なんでもないですよ砕牙先輩。」
「いっちゃん…。」
「先輩にしんらつなのはいたって日常ですから!!」
親指をグッと砕牙に向けて満面の笑みを浮かべる伊月。
「いっちゃああああああん!!!」
「ぶはっ!!砕牙先輩、その顔ウケるー(笑。」
「あれ、なんでだろう…目の前が歪んでよく見えないや。」
「え、マジですか。ガッコー休んで眼科行きます?」
「ああ、この子は純粋だからたちが悪いんだった。」


そんな風に騒いでいる二人を置いて、海斗と椎名は会話を続けていた。


「…いつも以上に荒れてますね…。……どうかしたんですか?」
「………別に。なんでもねぇよ。」
ふいと顔を背ける海斗。その様子をじっと見る椎名。
「……。」
「………。」
「……………。」
「………………、。」
「………徹夜明け二日目、といったところですね。」
「っ!?」
海斗が視線を戻せば、椎名が困ったように笑っていた。
「保健委員、なめないでくださいよ?」
「……仕事がたまってんだよ。」
吐き出すようにそう呟けば、椎名が少し歩み寄った。
「…では、頑張り屋さんの五十嵐くんにご褒美をあげましょう。」
「…?」
「ふふ、なんてね。二人には内緒ですよ?」
そう言って海斗に差し出したのは、薄桃色の小さな袋。
「白桃味なんですが…お嫌いですか?」
片手を取られ、小さなその飴の袋を包み込むように握らされた。
「……いや、嫌いじゃねぇ。」
わずかに口角を上げれば、椎名は柔らかく微笑んだ。
「それはよかったです。」
ふわり、そんな音をつけたくなる、優しい微笑み。校内一の癒し系と謳われるのも納得がいく。

「「とぉう!!」」

「「!?」」

柔らかな空気が流れていた二人の間を、二人のバカが遮った。

「海斗!!椎名はあたしのお姉ちゃんなんだからとっちゃダメなのですよ!!」
「いや、とってねぇから。」
「カイトー!!俺というものがありながらハクチュードードー不倫ですか!?不清潔!!」
「砕牙。俺も如月も未婚だから不倫とは言わない。あと言うとしたら不清潔じゃなくて不潔だ。」
「……他に突っ込むべきところがあると思うんですけど…。」
「突っ込むとかいっちゃんフケツ!!」
「うわ、下ネタとか砕牙先輩サイテー!!」
「砕牙、今の使い方はよかったぞ。」
「ホント!?ヤッター!!!」
手放しで喜ぶ砕牙に、伊月に抱き着かれたままの椎名が、
「確かに、出会ったころに比べればかなり上達しまたよね。日本語。」
「へへへ。カイトやみんなといっぱいお話ししたくて、オレ強烈にベンキョーしたもん!!」
「……おしい。強烈じゃなくて猛烈だろう。」
「おおう、そうであったー!!」
「「ぷ、」」

4つの笑い声が響く通学路。今日もこの街は平和です。



「あ!!今チャイムなった!!!」
「マジですか!?」
「おい、走るぞ!!」
「あ。でも今日は一時間目は全校集会なので少々は大丈夫と思いますよ?」

「…まあ…それでもさ、」
「…ですね。」
「…だな。」
「…はい。」

「「はっしれ〜!!」」


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青春の名のもとにバカすることが好きなだけだよ
110520






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