▼10(1/2) 今日は約束していた日曜日。現在6時55分、図書館前。 『本日は終了しました。』という立札の前にたたずむ4つの影。 左から砕牙、海斗、伊月、椎名の順に軽く弧を描いて横一列に並んで駄弁っていた。 「とりあえず一通り必要なものは持ってきたと思うが……。」 「…海斗はやっぱりお母さんポジションですね。」 パーティーパックの花火の他に、蚊取り線香や虫刺されの薬、蝋燭とゴミ袋まで持ってきた海斗に伊月は関心と呆れを混ぜた溜息を吐いた。 「必要なものだろ?ないよりはあった方がいいからな。」 「まあ…確かにそうですね。」 「ああもう、ワクワクするよ!!」 「ですね!!」 「お、そろってるな〜。」 ふいにかけられる声に顔を向ければ、そこには神高の二人がのんびり歩いていた。 「よっ!!」 楼亜が軽く手を上げれば、口々に軽く挨拶をした。 「時間ぴったりだな。」 「5分前行動は基本だろ。」 「うっわ、真面目〜。」 「それがカイトだからね〜。」 「イリアちゃーん!!」 「イリアさん、お久しぶりです。」 「伊月ちゃんも椎名ちゃんも、元気そうで何よりデス。」 女子組と男子組に分かれて先にあいさつを交わし、一通り話すと楼亜は如月姉妹に、砕牙と海斗はイリアに声をかけた。 「如月ちゃんたちも久しぶり〜。」 「ご無沙汰してます。」 「一週間前にあったですけどね。」 「ははは。それもそうだな。」 「イリアちゃん久しぶり!!」 「うす、昨日ぶりだな。」 「えぇ!?俺のいない間に会ってたなんてカイトずるい!!」 「俺に言うなよ…。店に来てたんだから。」 「あそこには最低でも週に一回は行ってるデスヨ。」 「うぅ、オレもC.Worldでバイトする!!」 「マスターが採用してくれればな。」 「…マスターに気に入られるのは、たぶん働くより難しいデス。」 「ぐぬぅ…。」 ある程度会話をし終えたのを見計らって、楼亜がピンクのケータイを取り出した。 「……さて、再会の挨拶も済んだしそろそろ行くか?」 ケータイで時刻を確認した楼亜がそう問えば、賛同の声が上がった。 「おー。そうだな。」 「そうですね。」 「やっふぉい花火―!!」 「花火―ぃ!!!」 「…びー。」 砕牙と伊月がハイテンションに腕を上げれば、イリアが控えめに便乗した。 「…愛咲(アサキ)、こいつらに無理に合わせなくていいからな。」 「ちょ、酷くないですかバ海斗。」 「事実だろ?」 「うぎぃーっ!!」 「この、アホ伊月!!足蹴んなっ!!」 「もう、伊月ちゃん…。」 ふくらはぎを蹴りまくる伊月と早歩きで避ける海斗の攻防戦を微笑ましげに眺める椎名をよそに、 「い、イリアちゃんも花火楽しみだよねっ!?」 砕牙が泣きそうに眉尻を下げてイリアの肩を掴んで詰め寄れば、少し引き気味にイリアが頷いた。 「ま…まあ楽しみ、デス…よ?」 「よっし、それなら万事オッケーさっ!!」 「イリアちゃんに触んなチャラ男。」 「あでっ。」 先頭を切って歩いていた楼亜が最後尾まで早歩きでやってきて、勢いよく砕牙の頭をはたいた。 「大丈夫かイリアちゃん?怖かっただろ?けがさぶぐっ!!」 「触るなデス、色魔。」 砕牙を押しのけて肩を掴んだ楼亜の顔に、イリアは持っていたカバンを押し付けた。 「…みなさん仲がいいですね。」 「「なぜそうなる(ですか)。」」 海斗と伊月の突っ込みが綺麗にハモッた。 そんなこんなで、一行は何処のホテルだとでも言いたくなるような、とあるマンションの前に着いた。 「……なんでマンション?」 「しかもオレんちだし。」 「「え゛っ!?」」 ぽつりと零した砕牙の一言に、伊月、楼亜が声を漏らして驚き、イリアはギョッとしたように砕牙を見た。 「えぇえっ!?なななな何かな!?」 「むー……実はお金持ちの家とかッスか。」 「もしくは危険なことに足を突っ込んでるか、だな。」 「…誰かとルームシェア…とかデスカ。」 「藤井さん一人暮らしでしたよね?」 焦る砕牙をよそに様々な憶測が飛び交う中で海斗が、話がそれてる。と呆れたように声を上げた。 「だいたいなんでこのマンションに来たんだよ?」 「ああ、そうだった。まあちょっと待ってろ。」 そう言うやいなや、楼亜はマンションの中に入って行った。 イリアちゃん達を置いてマンションの中を進む。 さて、あいつの部屋は…確か6階だったな。部屋番号がロックとかかなりイカしてるとかなんとか言ってたからな。 エレベーターに乗り込んで6のボタンを押す。 ……それにしても、 「…藤井砕牙、か。」 お世辞にも安いとは言えないこのマンションに住んでいるという時点でかなり金があると思っていいだろう。ただし親はフランスとか言ってたな…仕送りするにも海外からとなると限度があるだろう。と、なると国内に親戚か何かがいるか、自分でよっぽど稼いでるかのどちらかだな。…前者の可能性は低いだろうな。もしそういう人間がいるな、らわざわざこんな高いマンションに住まさずに一緒に住むなりするだろうし。……まあ18にもなれば仕事の一つや二つあるだろうから後者も不可能じゃない。…でもそうなるとそれなりのところで働いてるってことだよな…。顔は悪くないみたいだからホストでも出来そうだが………ふむ、想像しやすいな。 諸国に別荘があるとか気になる事は色々あるが… 「ルカにかかれば調べられないことなんて、ないんだよね。」 無意識に上がった口角を片手で隠しながら、止まったエレベーターから出る。 エレベーターからまっすぐに進んで、突き当りの一歩手前の部屋…609号室。ドアフォンを押せば、耳障りなブザー音が扉の向こう側に響く。 「………。」 ブー 「…………。」 ブー、ブー 「…………(怒」 ブーブブブブブブブブーブブーブブブブb ガチャ 「近所めーわく…。」 「早く出ないお前が悪い。」 俺が短気なのは知ってるだろう?とドアを開けた目の前の長身の男に声をかける。 「楼亜…、アポなしでくるおまえが悪い。」 くぁ、と眠そうに水色の頭をかいて、その長い髪を束ねていたシュシュを外した。 「つか、ルカお前…男のくせにシュシュで髪まとめてるってどうなんだよ…。」 若干呆れ気味に言えば、少し間を置いて 「……かわいいだろう?」 と、指でL字を作って顎の下に持ってきた。…このルカという男は、無表情であまり喋らないくせに、こういうズレた茶目っ気を見せてくる変人だ。 ……ま、一概に変人と言ってもこいつの場合は人より優れているからなのかもしれない。………俺は一応凡人のつもりだからな。…外見と家柄以外は。 「バーカ。そういうのは女の子につけて初めてカワイイっていうんだよ。」 男に対して可愛いなんて言う趣味はない。馬鹿にするのは別にして。 「…つまらん。」 「ああそうだ。今のうちに頼んでおきたいんだけどさ。」 拗ねたような視線を向けてくるルカを無視して仕事の話をする。 「……金とるぞ。」 「その辺は君の働き次第ってことでお願いしとくぜ。なぁ、社長?」 ニヤリと笑って腕組みをしてやれば、ネット上で会社を立ち上げた若き社長、ルカは無表情のまま溜息を吐いた。 「……内容は?」 「情報収集。期限はいつでも。色々わかり次第連絡ってことで。」 「…それだけのためにわざわざ…。」 「あ、これだけじゃねえよ?」 ルカが閉めようとしたドアを掴んで、閉めるなとアピールする。 「……なに。」 軽く眉間にしわを寄せつつ聞いてくるルカ。そうそうこいつがいないと始まらない。 俺は女の子たちに使うようなお得意の営業スマイル(笑)を作って見せた。 「車、出して?」 疑問符をつけてはいるが、もちろん相手に選択肢なんて与えない。強制だ。 「断る…。」 「断るなよ!!下でイリアちゃん達が待ってんだって。」 「……たち?」 ああ、そうか。鈴高組とは今日が初対面になるんだったな。 「そ。…ちょっと鈴高の奴らと仲良くなったから、ご一緒に花火でもいかがかなと。」 執事がするように恭(うやうや)しく手を添えて腰を曲げてみせる。 「鈴高…。…白センパイ、思いだすな。」 「そうそう、それがそいつらも白先輩の事知ってんだって!!」 俺とルカは神高だったが、よく白先輩に会いに鈴高へ足を運んでいた。 白先輩との出会い云々は…まあ省くが、ようは俺とルカは白先輩と仲が良かったって話だ。 「……白センパイ、元気かな…?」 「あー…、バイトしてるくらいだから元気だろ。」 「ふー……ん。」 「まぁそれはともかくさ。車出してよ。俺いれて…6人いるから。」 「………。」 無表情のまま俺の方を見てくるルカ。……たぶんメンドくせーとか思ってるんだろうなあ…。 「…ちょっとまってろ。」 そう一言残してルカは部屋の中に消えていった。 …これはオーケーってことで出かける準備をしに行った…と考えていいみたいだな。 俺の勝ち!!なんて思いながらズボンのポケットから黒いスライド式のケータイを引っ張り出してメール作成画面を開く。 To : イリアちゃん Sub :交渉成立!! ―――――――――――― 運転手の準備ができるまで もうちょっと待っててね♪ ―end― 簡単な文章を作成して送信ボタンを押す。 「そーしん、っと。」 送信完了の画面を見ながら、ほっと一息ついた。 このケータイならまだ間違えることはないが、メールの送信時は宛名に細心の注意を払わなくちゃならない。…なんたって送り間違えようもんなら、一体どういうことだと癇癪をおこす子がいない訳ではないから、な。 まあそれはそれでそのスリルが楽しいっていうのもあるけれど…。でも結局は後々面倒くさいから遠慮したいね。修羅場とか、修羅場とか。 やれやれと内心ため息を吐きながら、もうしばらくかかるだろうルカの準備を待つために、開けっ放しのドアから部屋の中へと入った。 → |