▼07(2/2)


「わぁお、大胆告白聞いちゃた。」


4人以外の声がして驚いて廊下の方を見れば、そこには見慣れた制服をまとった記憶に新しい人がドアに寄りかかって立っていた。

「楼亜!?」「あ、図書館の人。」「こんにちは。」
「ローア君じゃないか!!久しぶり、元気―?」
「おう、一か月ぶりくらいか?」

図書館の旧棟でであった神高の楼亜。あの出会いから図書館の旧棟で何度か顔を合わせて、他校ながらに仲良くなったのだった。

「何々?俺がいない間にカップル誕生しちゃってたなんて知らなかった〜。」
ニヤニヤと笑いながら教室内に入ってくる楼亜。

「カップル?誰と誰が?」
椎名に髪をいじられながら一体何のことやらと目を丸くする砕牙。
「誰って、お前だって砕牙。椎名ちゃんの事好きだったんだな。」
俺はてっきり伊月ちゃんと付き合ってると思ってたぜ、なんて言いながら空いてる机に腰かける楼亜。
「ふえ?この中の誰も、誰とも付き合ってないよ?」
「は?でもさっき好きって……。」
「こいつはそういう奴なんだよ。」
深いため息を吐きながらこめかみを抑える海斗。一体どういうことだと楼亜は海斗を見た。
「あー……砕牙、こいつのことどう思う?」
と、隣にいる伊月を指させば、砕牙は満面に笑みで
「だぁーいすきー。」
と答えた。
「じゃあ俺は?」
「あいしてるー。」
「楼亜は?」
「すきー!!」
「……わかったか?」
海斗がまるで憐れむように楼亜を見れば、楼亜は少し顔を青くして片手で顔半分を覆った。
「こいつにとって『好き』とか『愛してる』に大した意味はない。ただ好意を伝えるための言葉であって愛だ恋だの言葉じゃねぇ。」
「わかったわかった。わかったから。」
野郎に好きとか言われると気持ち悪い。と自分の両肘を抱いた。
「俺だって野郎に好きとか言いたかねぇよ。」

「はい、できましたよ。」
椎名がぽん、と軽く砕牙の肩を叩き手鏡を渡す。
声のした方に顔を向ければ、
「ぶっ!!」 「くっ!!」 「!?」
「おぉ!!オレかわいい!!」

四方八方にはねてた金髪はいつものカラフルなピンであちこちとめられ、前髪は額をむきだすように真ん中あたりをピンクとオレンジのボンボンが付いた髪ゴムで1つに結ばれ、それ以外はサイドへ流されウサギの飾りのついたパッチン留めで留められていた。
「あははははははっ!!!砕牙せんぱっ!!くはっ!!」
「っくくく、かわいいかわいい。あー、まじかわいいぜ?」
「如月、お前……はぁ。」
「ご注文通り可愛くなったでしょう?」
「しーちゃんメルシー!!サンキュー!!グラッツェ!! ありがとう!!ダンケシェーン!!」
「わざわざ5か国語で言う必要あったか?」
「オレの気持ちの問題!!」
新しい髪形にご満悦な様子の砕牙と、あきれ顔の海斗、伊月と楼亜はお腹を押さえて悶絶中。そんなちょっとした地獄絵図の中、椎名がそう言えばと声を上げた。
「楼亜さん、どうして鈴高の制服着てるんですか?」
名前を呼ばれ、若干涙目で呼吸を正す楼亜。
「え?…ああ、そうそう。さすがに他校の制服だとすぐばれちゃうからさ。オトモダチに調達してもらったんだ。」
ネクタイを少し緩めて軽く咳払いをし、これからが本題、と机に座りなおした。

「君たち、花火見たくないか?」
「「花火!?」」
花火の単語にお祭り好きの砕牙と伊月は目を輝かせた。
「花火って、花火大会はもう少し先だろう?」
海斗が眉間にしわを寄せて首を捻れば、楼亜は肩をすくめた。
「そうじゃなくて、手に持ってやる花火な。イリアちゃんとやろうと思ったんだが……二人だとっちょっとさみしいかと思って、な。」
どうせなら多い方がいいだろう?と苦笑を漏らす楼亜。
「俺のオトモダチはイリアちゃんの事あんまり好きじゃないみたいだし、イリアちゃんも俺のオトモダチは好きじゃないっていうしな。」
「それで、私たち…ですか?」
「そ。俺もイリアちゃんも顔見知りだし。それなりに仲良くなってきたかなーと親睦会を兼ねて。」
悪くない話だろ?と足を組みなおしながらにやりと笑った。
「……花火、やるのはいいけどどこでやるつもりだ?」
「俺んちの別荘。」
「べっ!?……ああ、そういえばお前神高だったな。」
さすがはお金持ち学校。と皮肉を言う海斗を椎名が軽く小突いた。
「どうだ、羨ましいだろ。……といっても、金持ちなのは家であって俺じゃねぇからな。」
「あ、でもオレも別荘持ってるよー。」
はいはーいと伊月と勝手に盛り上がっていた砕牙が割り込んできた。
「別荘って、何処に?」
「世界中。別荘ってかその国でのホームだよ。」
「それを別荘っつうんだよ。」
「へぇ、砕牙の親って何やってんの?」
砕牙の思わぬ発言に、楼亜は興味を持った。

「んー………イロイロ!!!」
顎に拳を当てて少し考えたかと思うとざっくりした答えが返ってきた。
「色々って、たとえば?」
「えっと、世界中飛び回って………いろいろ。」
はぐらかそうとする砕牙に楼亜が少し苛立ちを見せたのを感じ、海斗が
「そういえばずっとフランスで過ごしてて親とはあんまり会ってないって言ってたよな。」
とフォローした。
「うんそう。ママンも病弱でほとんど寝たきりでさ、オレはいっつも家の中に瓶詰だったわけ。」
「缶詰、だ馬鹿。」
「ふぅん。……ま、無理にはきかねぇさ。誰にだって言いたくないことの一つや二つ、や三つ四つ五つ…。」
「多いなおい。」
「謎が多い男の方がかっこいいだろう?」
ふふんと顎を上げる楼亜に、今度は海斗がイラっとした。

「それで花火っていつやるんですか?」
何か言おうとした海斗を遮って、伊月が待ちきれないと言わんばかりのキラキラした目で楼亜に詰め寄り、そのあまりの勢いに楼亜は少したじろいだ。
「い、一応来週の日曜あたりを予定してるけど。みんな大丈夫?」
周りに目配せすれば、それぞれが笑顔で答える。
「オレはいつでも空いてるよ!!」
「あたしもっ!!」
「私もその日なら大丈夫と思います。」
「俺は、マスターに相談してみる。」
「あー、レイル?別にあんな奴に許可とんなくてもいいと思うけど?」
嫌がる表情をまるで隠さずに毒づく楼亜に、さすがにそれはよくないと海斗が反論した。
「ねえねえ、ローア君とマスターってどんな関係なの?」
前に聞いたかもしれないけど、と付け加えて砕牙が聞く。
「……言いたくないことそのいーち。」
「うぅ、フラれた。」
「…どうしても知りたいならレイルに聞いてみれば?ま、答えるとは思わないけど。」
軽く肩をすくめて見せる楼亜。

「さて。伝えることも終わったし、俺は帰るとしますか。」
両手を組んで頭上へ延ばす
「は?たったそれだけを伝えに来たのかよ!?」
鈴高の制服まで着て。と海斗が呆れと驚きの混ざった顔で楼亜を見る。
「そうだけど?」
「……お前って案外暇人なんだな。」
「まあな。こっちは今テストやってて午後から暇なんだよ。」
「うえぇ、今のところ一番聞きたくなかった言葉ですよ。」
「もう終わってんだから気にしな〜い、気にしない。」
「畜生、学年1位の余裕ですかこの野郎。」
「ただの嫌味でしかないな。」
「……は?」
「ん?」

教室から出かかていた楼亜が、こちら振り返りぽかんと口を開けていた。
「学年一位なのか海斗。」
「俺じゃねぇ。そこの馬鹿だ。」
「バカっていうほうがバカらしいですよバ海斗。」
「あほ伊月は黙ってろ。」
「ムキーッ!!」
「うわっ、飛びつくな!!」
海斗の背中に飛びついた伊月と一緒にぎゃあぎゃあ喚いている
「ちょ、ちょっと待って。」
片手を額に当て、もう片方の手を海斗たちに向ける楼亜。

「えー…誰が学年一位って?」
「だからそこのさい「嘘だ。」………否定早いなおい。」
「学年一位ってそんな大したことじゃないでしょ〜。」
へらへらと笑う砕牙に海斗と伊月は、
「嫌味でしかないですね。」
「全くもってな。」
と、砕牙に冷めた視線をささげた。
「藤井さんの日々の努力の賜物なんですから、そんなこと言っちゃだめですよ?」
「如月も頭いいかんなー…。」
「しーちゃん物知りだもんね〜。」
「っく、みんなして嫌味ですかっ!?」
「いっちゃん、頑張ればどうにでもなるよ!!」
「世の中には頑張れないことだってあるんっすよおおおおおおお!!!」
両手で頭を抱えながら盛大に頭を振る伊月。
「……えー、みんなの成績とか聞いちゃっても大丈夫?」
楼亜が控えめに片手を上げれば、海斗が一人一人を指さしながらこれまでの成績データを言いはじめた。
「あー、信じがたい、ってか信じたくないけどこの馬鹿が学年一位で。」
「え、どういう言う意味なのそれ?」
「まんまの意味だ馬鹿砕牙。で、如月は常に学年のトップ5にはいる。」
「私なんてまだまだですよ。」
「おねーちゃん嫌味ですそれ。」
「伊月ちゃんは全然勉強しないからでしょ!!」
「ぐっ。」
「……こっちのあほの方の如月は3桁と2桁を行ったり来たりって感じだな。」
「くたばれバ海斗!!」
斜め後ろから海斗のふくらはぎを執拗に蹴りだす伊月。
「蹴るなガキ!!」
「ふぎゃ!!ぼーりょーく反対でーすー!!」
「そうだそうだー!!」
と、悪乗りした砕牙も伊月と一緒に抗議する。
「先に手を出した方が悪いんだよっ!!」
「まあまあ。それでお前は何位くらいなんだ?」
海斗をたしなめて順位を聞く楼亜に、海斗はため気を吐いて楼亜に向き合った。
「俺は…まあ真ん中よりちょっと上くらいで全然平均だ。」
「マジかよ!?俺、お前はもっと頭いいと思ってた…。」
「……悪かったな期待と違って馬鹿で。」
口元をひくつかせながら腕を組み、お前はどうなんだと楼亜に聞き返した。
「俺は……頑張れば10番代前半ってところだな。ま、俺は高校生活2回目だからテスト免除されてんだけど。あ、ちなみにイリアちゃんは20番代くらいな。」
「……テスト免除で暇だからこっちに来たと。」
「さてどうでしょう。」
楼亜はにやりと意地悪そうな笑みを浮かべて再び廊下に体を向け、
「じゃ、来週の日曜7時に図書館の前集合で。」
首だけふり返って片手を振りながら廊下へと姿を消した。

「……花火、ねぇ?」
「オレはいくよ〜。ついでにロケット花火とか買っていこうよ!!」
「じゃああたしはネズミ花火もっていきます!!」
きゃっきゃとはしゃぐお祭り好き二人組をよそに海斗は椎名に話しかけた。
「如月、お前はどうする?」
「私は……じゃあ線香花火でも持っていきます。」
「……センスが渋いな。」
「に、日本人になじみ深いものを選んだまでです。五十嵐くんはどうするんですか?」
「…俺はろうそくと蚊取り線香と…バケツ、かな。」
「五十嵐くん、花火ですらないですよ?」
「ああ、でも必要だろう?」
ついでにゴミ袋も持って行った方がいいか?と一人でぶつぶつと言い始めた海斗を見て、椎名は
「やっぱり、お母さんポジションは五十嵐くんで揺るぎないみたいですね。」
と苦笑をこぼすのであった。


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110925





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