▼07(1/2)




学生の登竜門であるテストも無事に終わり、学生達は夏休みに向けて……だらけていた

「ぐあー。あついよー、とけるよー。」
「黙れ。余計に熱くなる。」

期末テストも終わり7月半ば、季節は夏。地球温暖化の影響をもろに受けて、今年は例年にない猛暑となっていた。

時は昼休み。空き教室を勝手に改造してたむろしているいつもの4人組。
開け放たれた窓から、風に揺れる木々が見える。

「めーると、とーけーちゃーいーそーおーだよぉー」
某機械の歌姫の唄を歌いながら背もたれにのけ反り、天井を仰ぎ見る砕牙。
「砕牙先輩真面目に黙ってください。もしくは禿げてください。暑苦しい。」
どちらかと言えば長髪の部類に入る砕牙の金髪を忌々しげに睨みながらパタパタと手首を動かす伊月。
「暑い暑いというから余計に熱いんですよ?ほら、昔の人も言ってたじゃないですか。」
涼しい顔をしてノートを埋めていく椎名。
「うあ゛−?……あ、トーシンメッシュがヒノキに鈴木?」
「違いますよー。刀身滅却火の元涼しっすよー。」
「二人ともちげぇ。心頭を滅却すれば火もまた涼し。無念無想の境地に至れば火さえ涼しく感じるって意味。転じてどんな苦痛も心次第で苦痛に感じなくなるってこった。」
ぐったりと椅子の背もたれを抱き込むように溶けている海斗。
「…だそうなんで滅却されてください先輩。」
「……あれ、なんかオレの存在そのもののことを言ってないかい、いっちゃんさん?」
「あああつうううううういいいいいいいいい!!」
「ああもう暑さでツッコむ気にもなれないよ。」
「……なんで如月は平気なんだー?」
この暑さの中で平然としている椎名を疑問に思った。
「心頭を滅却していますので。」
クスクスと楽しげに揺れる三つ編みを、海斗はぼんやりと眺めた。
「と、いうのは冗談です。私はもともと基礎体温が低めなのでそんなに熱く感じないんです。」
「しーちゃんウマラヤシー…。」
「ねーちゃんうらやましー…。」
「もうっ。夏はいいですけど冬は寒くてかなわないんですよ?」
眉根を下げて肩をすくめる椎名。すると何かを思い出したようにカバンを漁った。

「そんなに熱いならこれ、使います?」
3人の前に差し出されたのは制汗スプレーと同様の汗ふきシート。
「こちらのシートの方はスーッとするタイプなので、少しはマシになるかと思いますが…。」
伊月と砕牙は我先にと汗ふきシートに手を伸ばした。

「…五十嵐くんはこっちにしておきます?」
出遅れたことと軽く笑われたことにバツが悪くなった海斗は眉間にしわを寄せて椎名から制汗スプレーを受け取り使った。それはほのかに香りのついていたものらしく、海斗の身体から少し柑橘系の匂いがした。
「カイトいい匂〜い。」
背後から海斗の首筋に顔を近づける砕牙。海斗はぞわりと寒気を感じ、砕牙の顔面を手の甲で叩いた。
「寄るなっ!!」
「へぶしっ!!」
「…砕牙先輩三下みたいな声ですね。」
「―っ。ひっちゃん、はんひ、なに?」
鼻を押さえながら伊月に聞き返すと、彼女は砕牙を鼻で笑った。
「雑魚って意味ですよ。」
「THE 粉?…カイト〜。」
砕牙必殺、困ったときの海斗頼み。解らないことは海斗に聞け。砕牙が高校生活で学んだことである。
「……雑魚。とるに足らないもの、小物。つまり下っ端の事だ。あー…子分その1、手下ども、パシリ、腰巾着、舎弟……まあこれくらいか。ようは弱くてかっこ悪い奴だ。わかったか?」
「………つまりオレ、またいっちゃんにシイタケにされたんだねっ!!」
泣いちゃう!!と両手で顔を覆って泣いたふりをする砕牙を再び伊月が鼻で笑い、海斗がシイタケでなく虐げられたと訂正した。

「もう、伊月ちゃん。藤井さんを苛めないの!!」
「あうっ。だって砕牙先輩が暑苦しいんですよー。」
「髪型じゃなくてオレ自身なのっ!?」
今まで傍観していた椎名がペチ、と軽く伊月の頭を叩いて砕牙の方を向く。
「藤井さん、ちょっとそこに座ってもらっていいですか?」
「ずびっ、うい。」
砕牙を椅子に座らせて赤みを帯びた鼻を見る。
「……うん、赤くなってるだけで大丈夫です。しばらくしたら自然に赤みが引きますよ。」
「しーちゃんメルシ。」
「五十嵐くんも、あんまり藤井さんを苛めちゃ、めっ!!ですよ。」
「へーへー。」
人差し指を向けられて、海斗はうんざりしたように肩を落としてため息を吐いた。

「あ、しーちゃんしーちゃん。それ貸して?」
鼻を押さえていた手をのけて、椎名の手首をさす。
「それ?あぁ、これですか?」
と椎名は手首にはめていた髪ゴムを外した。
「そ。いっちゃんがはげ散らかせって言うからギュッてすんの。」
「散らかせとは言ってねーです。はげ片づけてください。」
「そんなカンジだから使ってもよいですかい?」
プリーズ、と片手を差し出す砕牙に、椎名は少し微笑んで再びカバンを漁った。

「どうせなら私が結んであげますよ。」
と、カバンからクシを出して砕牙の背後に回った。
「まーじでか。とびっきり可愛くしちゃって〜。」
へへへと肩を震わせながら、大人しく姿勢を正して座りなおした砕牙の髪を、椎名のクシが梳く。
そんな様子を見ていた伊月と海斗は、ボソッとつぶやいた。
「……なんていうか、」
「……親子。」
「しーなママン!!」
「はーい。なんですかー、砕牙君?」
「えへへ、だぁいすき〜。」
「私もだーいすきですよー。」
くすくすと二人のつぶやきに便乗する砕牙と椎名。
「……ププッ、お母さんポジションとられてますよ。」
「そんなポジションはこっちから願い下げだっての。」
片手で口元を押さえながらによによと顔を向けてきた伊月に、海斗は渋い顔をしながら舐めていた飴を噛み砕いた。

「わぁお、大胆告白聞いちゃた。」








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