▼06


「うわぁ、さすがに人が多いね〜。」
「…まぁ、テスト週間だしな。」
「都心に行ったらもっと多いと思いますよ?」
「幸いにもこの辺りは鈴高と神高と、あと小学校があるくらいだから人はそんなに多くないっすからね。」
「いっそ中学校も作ればいいのにねぇ〜。」
「神高は中等部くっついてだろ、確か。」
「うはっ、さすがお金持ち学校!!」
「あ、神高の制服だ。」
「へぇ、可愛いね。」
「私は…やっぱり自分の高校の制服が好きですね。」
「あたしもー!!」
きゃっきゃと盛り上がりながら図書館に入ってきた四人組に館内にいた人たち(ほぼ学生)が注目した。
「お前らあんまり騒ぐな。」
やれやれと溜息を吐いて、海斗は開いている席を探した。



「(さすがに4人分は無理か…?)」
未だに雑談をしている3人を放置して館内を奥へ奥へと進んでいくと、ひっそりとした通路があったので進んでみると、少し開けた場所になっていて窓際の長机に神高の生徒が二人、向かい合わせに座っていた。
「(…隣に座れれば4人いけるな)」
俺は向かい合って勉強していた二人の男女に話しかけた。
「すいません。」
そう声をかければ、二人ともが少し驚いたようにこちらを見る。
「……何?鈴高の奴が俺らに何か用?」
黒髪の、チャラい感じの男の方が返事を返してきたが、それは思っていたより乱暴な口調だったので驚いた。
金持ち高校ということで有名な神高、もとい神羅高校の生徒だ。お嬢様口調だったり敬語で話したり…というもっと優雅な感じを思い描いていたので、こう自分に近い(…というのはどうかと思うが)荒い口調だったので少し口ごもるが、要件をさっさと済まそうと話を続ける。
「ああ、隣の席を使ってもいいだろうか?4人で来てるんだが座る場所がなくて、な…。」
苦笑交じりで説明すれば、黒髪の男は、目の前に座っている赤髪の女の子に話しかけた。
「…どうするよ。いやなら全力で断ってあげるよ?」
「……大丈夫デス。」
赤髪の子はふるふると首を振って俺を見上げた。その女子と目があって、俺はふと違和感を覚えた。
「……どこかであったことあるか?」
俺がそう言えば、黒髪の男が立ち上がって俺の目の前に立った。
「おいおい、俺のイリアちゃんに何やっすいナンパしてくれちゃってんの?」
「え、あ、いや。そんなつもりじゃ」
「あ゛ぁ?」
見下すように睨まれてしまえば、たじろぐしかない。
というか、この黒髪の男、かなりの長身だ。校内でもわりと身長の高い方に部類される自分よりも背が高いのだから。
「楼亜、やめるデスよ。」
「だってイリアちゃん…。」
こいつがさーと目の前にいる俺に人差し指を向けて、顔だけ赤髪の子の方を向く。…失礼な奴だな。
「その人とは顔見知りデスから。」
「「え。」」
俺は純粋に驚いたから、黒髪の男は嘘だろ!?という感情を混ぜた声が、ハモッた。
「えってお前、イリアちゃんに会っといて覚えてねぇとはどういうことだゴルァ。」
こんなかわいい子を忘れるとかマジでありえねぇ!!と胸ぐらを掴まれて揺すられる。
「ちょ、まて。やめ」
「カイトっ!!」
バリッと引き離すように、俺と黒髪の男の間に砕牙が割って入る。
「オレの友達いじめないでよ。」
「なんだよ、お前。」
砕牙が黒髪の男と睨みあう。
「ただのコーコーセー。俺の友達いじめないで。」
「いじめてねぇよ。そいつが俺のかわいいイリアちゃんを覚えてねぇとか抜かすから…」
「誰がいつアンタのものになってって言うデスか。」
はん、と鼻で笑うように言い切った赤髪の子。……というかこの空気の中で突っ込みできるなんて…結構度胸のあるお嬢様だな…。
「…キミって…。」
砕牙が発言をした赤髪の子を見て固まる。
「砕牙、お前知り合いか?」
「え?カイトも知ってるよ?」
「は?」
「…ほら、あの……ホットミルクの子!!」
何と言っていいかわからなかったのか、砕牙は意味不明なことを言い出した。よりにもよってホットミルクの子って…………ホットミルクの子…?
「あ、喫茶店の…。」
「いつもお世話になってるデス。」
ぺこりとお辞儀をする彼女は、バイト先であり行きつけの喫茶店、C.Worlodでよく見かける常連の子だった。彼女はいつも大体ホットミルクを頼むので砕牙の言っていたことにも納得がいった。いつもホットミルクを頼む子、と言いたかったのだろう。

「喫茶店…?」
ひとり状況をいまいち理解出来ていない黒髪の男は、一人首を捻った。
「図書館の近くにあるとこデス。」
「C.Worldっていう…アンティーク風なところだよ。」
「しーわーるどって……レイルんところじゃん!?」
赤髪の子と砕牙が説明すれば、黒髪の男はげっというように顔を歪めて驚いた。
「何、イリアちゃんあいつのとこに通ってんの!?」
「なかなかおいしいデスよ。」
何か問題でも?と赤髪の子は首をかしげる。すると黒髪の男は額に手を当てて深くため息を吐いた。
「俺は訳あってあいつの近くに行けないけど、男は皆オオカミなんだよ?」
「マスターの場合ニンニク投げつけるから大丈夫デス。」
「レイルは吸血鬼かっ!!…ってかまだニンニク嫌い治ってねぇのかよ…。」
「………マスターと知り合いなの?」
「あ?」
完全に蚊帳の外だったのだが、砕牙がずかずかと会話に入って行った
「……知り合いっつーか腐れ縁?…まぁ、顔見知りってやつだ。お前は?」
「オレ?オレはマスターんとこのジョーレンサンで、カイトはバイト君。ねー。」
「ぉ、おう。」
いきなり俺に話を振るな。ビビッただろうが、と心の中で文句を言い、応じる。
「へぇー。人間不信の塊みたいなレイルが雇うなんて……あんた、見た目よりはいい奴なのかもな。」
「……見た目よりはとは失礼だな。」
「お、わりぃわりぃ。つい本音が出てだけだ。」

……この黒髪の男、根本的なものがマスターに似てる気がする。まあマスターの目の前でそんなことを言う勇気はないが。
「ところで少年、バイトはお前一人なのか?」
「…少年って。あんたも3年だろ?同い年に少年はないだろ。」
俺がそう注意すれば、黒髪の男は少し目を見開いたかと思えば大声で笑った。
「あっはっはっはっは。俺が3年か、そうかそうか。そうだった!!」
「ちょ、ここ図書館だから静かにしろよ!!」
「はー、いや、すまん。誤解を招くようで悪いが、」
そう言って黒髪の男は赤髪の子の肩を抱いて、
「残念ながら俺達は高校一年生なんだなー。」
と笑った。

「……マジで?」
「マジで。」
「じゃあ年下っ!?」
「……こいつは19歳デスよ。」
「「え!?」」
「おう。一回卒業してまた入学してやったのさ。……金に物言わせて。」
……金に物を言わせて再度入学とか、どんだけ学校好きなんだよ…。俺がそう考えているのがわかったのか、黒髪の男は言っとくけど、と続けた。
「俺はガッコ好きじゃねぇからな。再度入学したのは、別の学科に入るため。……ってかイリアちゃんと学校生活を共にするため。」
語尾にハートマークをつける勢いで赤髪の子に抱き着こうとしたが、男の結構整った顔面には分厚い辞書の背表紙がめり込んでいた。
「誤解を招く発言はやめてもらいたいものデスネ。」
フンッと手を払う赤髪の子に、砕牙が話しかける。
「この人、カレシさんじゃないの?」
と床に突っ伏した黒髪の男をさせば、彼女はまさかと首を振った。
「このチャラ男とは幼馴染でずっと面倒見てもらってるだけデス。こんなのがカレシとか勘弁してほしいデス。」
「……ひどい言いようだな…。」
「毎日いろんな女を侍らせて、誰彼構わずキスするような奴はチャラ男以外の何物でもないと思うデス。そしてそれがカレシとかホント勘弁してほしいデスよ。」
「うわぁ、……最低だな。」
起き上がった黒髪の男を一歩引いて軽蔑の目で見るとヘラリと笑った。
「誤解だって。彼女達はみぃーんな俺のオトモダチなの。友達とつるんで何が悪いっていうのさ?」
さも自分が正しいという黒髪の男を、赤髪の子が睨む。
「……楼亜は友達ならキスとかそれ以上のコトするんデスカ?」
……キスとかそれ以上って…。思わず顔に熱が集まる。
…歳がひとつ違うだけでこんなに差が出るもんなのか…?……ってか未だに未経験な俺が遅れてるのか…?いや、でも!!……は、初めてはやっぱり好きな子と……その、な。…って俺は何を考えてるんだああああああああああああ!!!!
頭を振って邪念を追いやって二人の会話に耳を傾ける。
「…彼女達とはそういう友達って………不純デス。」
「……最低。」
少し聞いてなかったが、赤髪の子が反復してくれたので俺も聞いていたように返す。
すると砕牙が人差し指を立てて
「フジュンイセーコーユーってやつか!!」
と言った。………あながち間違ってないと思うが…。それを本人の目の前で言うのはどうかと思う。
すると黒髪の男は軽く肩をすくめて、なんとでも言いなよと言った。
「ま、それが俺だしね。好きだからつるんでるんだし、好きなら触れていと思うのは当然の事じゃね?」
……まあ、確かに。こいつの言ってる事がわからない訳ではない。だからと言って軽々しく触れるのはどうかと思う。とか考えていると、赤髪の子が顔を真っ赤にして
「す、好きはばらまくものじゃないんデス―!!」
と叫んだ。いや、ここ図書館だからな一応。ってか今まで結構な音量で話してるはずなんだが……、誰も注意しに来ない。というか気づいてない…?
「はは、イリアちゃん真っ赤―。かーわいっ。」
俺が一番好きなのはイリアちゃんだよ。と余裕の笑顔で赤髪の子を窘めるこいつは、やはり女の子の扱いに慣れてるなぁと思った。

「……ねえ、この子に向けてる好きっていうのとオトモダチに向けてる好きって違うんじゃない?」
ふいに砕牙が妙なことを言い出した。砕牙が突発的に変なことを言い出すのはいつもの事だが、初対面のこいつらは戸惑うのでは?と思ったが、黒髪の男は一瞬だけ目を伏せてにやりと笑った。
「………さ あ?でも好きであることに変わりはな」
「とーぉうっ!!」
「うおぉ!?」
「!!?」
話を聞いていたらいきなり背中に衝撃。何事かと振り返れば、見知った顔が仁王立ちしていた。
「このバ海斗!!あたしたち置いていくとかなんなんですか。何様ですか。お母様ですか。」
「お母様言うな。」
「お姉ちゃんとどんだけ探したと思ってるんですか。しかもまさか旧棟の方まで来てるとか…。」
「だからっていきなり飛び蹴り……ん?」
旧棟?……何のことだ?
「……旧棟?」
「え、カイト気づいてなかったの!?ここ図書館の旧棟だよ!!」
……そういえば人がいなさそうなところを探して薄暗いところには入ったが……。
「……この図書館に旧棟なんてものがあるとか知らなかった。」
俺が素直にそういえば、砕牙と伊月が顔を見合わせた。
「えー、知ってるよー。カイトも去年肝試ししたじゃん。」
「肝試しって……あれは廃屋でやっただろ?」
「…その廃屋って、たぶん此処の事じゃね?」
黒髪の男が言うと、砕牙がそうそうと便乗した。
「…なんでだ?」
「この図書館、昔はある屋敷の書庫だったんだよ。そこの家主は大変な読書家でな、書斎だけじゃぁ本が収まりきらなくなって屋敷の部屋をどんどん書庫にしていったわけ。そんであまりの収集っぷりに町の奴らが俺等にも読ませてくれーって頼んできて………それからまあこんな感じ。」
「今となっては家主もいなくなってこの図書館は市が管理してるけど、図書館…つまり書庫部分以外のところは屋敷のままが残されてるから、若者たちのゼッコーの肝試しスポットというわけなのさ!!」
黒髪の男と砕牙の息の合った説明に納得する。
「なるほどな。…砕牙、お前は何でその事知ってんだ?」
「オレ?図書館で迷子になった時にこっちまで来ちゃって、そんでカンチョ―さんに救出してもらったときに聞いたのー。」
えへへと笑う砕牙にそうかと溜息を返して黒髪の男の方を向く。
「お前は?なんで知ってたんだ?」
黒髪の男の方を見れば、少しムッとしたようにこちらを見た。
「……あのな、俺はお前って名前じゃない。」
そう言われて名前を呼ぼうとしたが、そういえば名前を聞いていないことに気付いた。
「…俺、あんたの名前しらねぇ。」
睨むように見つめれば、黒髪の男は再び大声で笑った。
「あはははははははっ!!わりぃ、自己紹介してなかったな。そういえば。」

………まったくもって『そういえば』である。
「俺は楼亜(ロウア)、19歳。神高の一年だ。」
「俺は海斗。五十嵐海斗、18だ。見てのとおり鈴高の3年。」
「オレは砕牙!!カイトと同じく鈴高3年生!!」
後は女子組かと視線を向ければ、女子は女子同士ですでに仲良く雑談していた。

「へぇ〜イリアちゃんの方が年下なんですね〜。」
「付属中学からの持ちあがりなんで神高の事は結構知ってるデスよ。」
「あ、では今度遊びに行ってもよろしいですか?」
「全然かまわないデス!!アタシも遊びに行ってもいいデスカ?」
「「もちろんです。」」

きゃっきゃと手を取り合ってはしゃぐ三人を見て、俺等男子組は、
「「「……。」」」
唯々、唖然としていた。

「…女の子って、順応力たかいねぇ…。」
「……すごいよなぁ……。」
「すご過ぎて逆に怖ぇ。」
「白先輩かっ!!」
「「!?」」
白、という名前に聞き覚えのある俺と砕牙は勢いよく黒髪の男、もとい楼亜を見た。
「ありゃ?お前らも白先輩しってんの?」
「知ってるも何も…。」
「カイトのバイトの先輩だもんね?」
「は!?白先輩がレイルんとこで……?」
信じられない、とでも言いたげに目を見開いて固まる楼亜。
「あ〜〜〜〜っ!!!」
急に叫ぶもんだから女子組もこちらを見た。
「レイルには会いたく…ってか近づきたくもねぇけど白先輩には会いてぇ……。ってか苛めたい。」


……最後の方、ボソッと聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。

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