なまえ URL コメント 「白ウサギはまつりとかいかないのですか?」 貸切状態の店の中、スプーンを磨いているとカウンターに座ったレクがそう呟いた。 「祭……か。久しく行って無いな。」 お前は行かないのか?と店内に貼ってある地元夏祭りのポスターに目を向ければ、自分のことはいいからとはぐらかされてしまった。 「学生のころはよく行ってたけどな…最近は誘ってくる奴もいねぇし、仕事が忙しいしなー。」 「…ハクは友達が少ないんですねー。」 「ちがっ……わない、か。まあ片手で足りる程度しかいないのは事実だしな。」 「寂しいやつですよ。」 「うっせ。」 すべてのスプーンを磨き終わったので次はフォークを磨きはじめる。 「で、どうなんです?」 「あ?」 「まつりですよ。まつり。今年はいかないのですか?」 レクさんが誘ってやらねぇこともねーですなんて言って来たので、その無造作にはねる赤い頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜてやった。 「言っただろ?忙しーんだよ。」 誰かさんがこの店の雇用人数を増やさないせいでな!!という意味を込めて読書中の誰かさんもとい、この店の店長であるレイルを見る。 「どうかしましたか?」 何か文句でも?と言いたげに微笑むマスターに何も言えなくなった。畜生、怖すぎる。 「弱すぎですよ…。」 「じゃあレクはマスターに勝てるか?」 「……マスターには勝つ必要がないのですよ。」 「…うまいこと逃げたなこの野郎。」 事実ですよーなんていうレクにため息を吐いて催促された紅茶を淹れる。 「…学生の時はよく行ってたですか?」 「ん〜?」 温めたポットの中に蜂蜜と茶葉を入れてお湯を注ぐ。 「まつりの話なのですよ!!」 ひっくり返した砂時計をカウンター側に持ってきてレクの話に意識を戻す。 「そうだな…そんなに頻繁じゃなかったけど、神高の奴らとも行ってたし…ああ。リック、お前の父さんとも行ってたな。」 「パパ…ですか。」 「おー。お前の父さんはとにかく祭り好きな奴でな……ホント、祭好きな奴だったんだよ…。」 リック、レクの父親のリカルドとはそれなりに長い付き合いだったが、良くも悪くもお祭り好きな奴で…というか騒ぐのが好きな奴だった。今思えば砕牙みたいなやつだった。 電車で通える範囲の祭りは制覇しようとするし、文化祭や体育祭なんかは実行委員になってあーだとーだと企画しまくっていた。そして何故か江戸っ子気質で「喧嘩と花火は江戸の華!!」なんて言い出しそうなくらい喧嘩にも突っ込んで行っていた。文化祭なんかは祭り好きの本領発揮で、みんなが楽しめるような出し物や出店、更にはジンクスまで作り上げてそれが大成功だったから驚きだ。……今度海斗が来たらそのジンクスがまだあるか聞いてみよう…。 確かにリックとは楽しい思い出も多かったが、どちらかと言えば迷惑をかけられてた記憶の方が多い気がする…いや絶対多い。あいつの壊した窓ガラスの掃除とか、突発的に思いついた企画の準備に放課後10時くらいまで居残りさせられたとか、考えるだけ考えてやるだけやってあとはさじを投げたあいつの代わりに後始末とか。…あ、なんかイライラしてきた。 「おーい。自分の世界から戻ってくるですよー。」 「あー………すまん。」 そのリックにそっくりのレク。…父親の愚痴を言うのも、息子のこいつにあたるのもお門違いだな。 「……今夜はお前の好きな物作ってやるよ。」 「!!。じゃあレクさんグラタンがいいですよ!!」 「この時期にグラタンかよ…。」 落ち切った砂時計を自分の方に戻して、グラスに氷を落として更に蜂蜜を一すくい落とす。そこにいれたての熱い紅茶を流し入れてマドラーでひと混ぜ。 「じゃあ帰りに牛乳買っとけ。」 「うあー…了解なのですよー…。」 嫌そうな顔をしながら渋々頷いたレクの前に紅茶を差し出す。 「あとでミルク足すだろうからアッサムにしといた。」 「おー。レクさんはアッサムが一番好きだから歓迎ですよ!!」 「……お前昨日はダージリンって言って無かったか?」 「今日のレクさんは、なのですよ!!」 「そーですかー。」 「そーですよー。」 嬉しそうに蜂蜜たっぷりのアイスティーを飲むレクに、こうやって変人との付き合いスキルが上がっていくのかと内心ため息を吐いた。 「…それが嫌じゃない自分も変人だな。」 「白ウサギが変人なのはしゅうちの事実なのですよ!!」 胸を張って答えた自称天才に今度は本当にため息が出た。 +++ この二人の掛け合いは個人的には結構好きです。紅白親子!! これが白さんじゃなくて海斗だといちいち反応しちゃいますね。たぶん青☆春の中で白さんが一番精神的に大人だと思います。マスターや桔梗さんは好きな子ほど苛めたい人なのでたまにちょっと子供っぽいところを見せたりするので ●●● ●●● 編集パス