無機質な俺の家に、さりげなく花を添えてくれる吹雪の存在。 それは、俺がSINCEREから持ち帰ってきた花束を部屋に飾ってくれたり… 吹雪の存在自体も俺にとっては、心癒してくれる゙花゙だ。 「なあ吹雪……ここで一緒に暮らさないか?」 「…………え…」 「店から少し遠くなる分、俺が家のことを手伝うから」 「………………」 抱き寄せると、いい香りがする。 昼食の後片付けを終えて台所から出てきた吹雪を抱きしめながら、甘い香りを胸に吸い込んだ。 今からまた、離れ離れになりお互いの仕事に出掛けるのが………憂鬱で。 「次の水曜に、引っ越しするか」 「…………うん。そうしよっかな」 3年と少しの間ここで暮らしていた妹も、今は全寮制のエリート高校の2年生で滅多に帰って来ない。 独り身でいつでも恋人と暮らせる環境だったから、堪え性もなく同棲を申し出てしまった次第だ。 吹雪があの店の2階での暮らしに愛着を持っていることを知った上での、俺の我儘であることも承知している。 「その方が…ずっと一緒にいられるもんね」 と、快く頷いてくれた吹雪の表情が寂しげに曇っていることに気づいていない筈はない。 だが、それ以上に俺が吹雪に夢中で……片時も離したくなくて。 思えば、このことが吹雪の寂しさを増幅させ―――不安定にしたのかも知れない。 「イシドくん、この間の話の続き………いいかしら?」 営業時間中なのに客を待たせて、社長が俺を呼びつけるなんて珍しいことだ。 俺が意外そうに応接室に来るのを見て「あなたは最近身が入ってないから時間外でも時間内でも同じでしょう」と鼻で笑われ゙それもそうだ゙と自覚する。 接客している間中、思うのは吹雪のことばかりで。仕事だと割り切っているつもりなのに……吹雪じゃない相手と甘いやりとりをすることに空しさしか感じていないのだから。 「この人物を知ってるかしら?」 「………高級キャバクラ界の帝王・千宮路大悟…ですね」 応接テーブルに置かれた写真を見て俺が答えると、 さすがね。と瞳子社長は髪を掻き上げた。 「あなたをこの時間に呼びつけたのは、実は緊急事態だからなの」 「緊急事態?」 「そう。12月末の四半期の売上を見て。こっちが9月末までのね」 写真の上に投げ棄てるように置かれた書類を見ると、9月までと比べ4分の3に落ち込んだまま3ヶ月間停滞している折れ線グラフが目に飛び込んだ。 「SINCERE?……だが、これはうちの店じゃない」 「フッ…そう。2号店の売上推移よ………あなた今年9月に千宮路が2号店のはす向かいに高級ホストクラブ『velvet』を開店したのは知っていて?」 「ああ、基山から聞いてます」 「……じゃあ話が早いわね。あっちば高級志向゙と、こっちば真心゙…コンセプトは違っても、4分の1のお客が『velvet』に流れてる。2号店はまだ開店半年だけど所場代はここより高いの。売上低調のまま遊ばせてる余裕は無いのよ」 「………………」 「あなた、これを建て直す気はない?この問題が解決出来れば……」 瞳子社長は勝ち気な微笑を浮かべて俺を煽った。 「ホストから足を洗ったあなたを吉良財閥の幹部に…引き抜いてあげてもいいわよ」 「…………やってみます」 一瞬考えたものの、俺は二つ返事に近い形で頷いた。 話を引き受けてから2週間。 俺は2号店を閉鎖し、店長始めプレイヤー全てをSINCERE本店に客ごと呼び戻した。 ここと2号店はそんなに遠くなく同じ街の中にあり………それは俺のテリトリー内で、事業を進めるにはおあつらえ向きの条件だった。 SINCEREにとっても……2号店ツートップの緑川と虎丸はもともとこっちで働いていた同僚で、店長も兼ねていた緑川は基山の恋人ときているのだから、本店は自然と活気づいた。 「ねぇ修也。最近……出勤時間が不規則じゃない?」 「ああ、最近内勤も入れているからな」 今月からずっと…俺は接客もしながら事業戦略を練り、閉鎖後の2号店や…千宮路の元にも何度か足を運んでいた。 千宮路は元々瞳子社長と同じ吉良財閥の出らしい。 にも関わらず挨拶もなしに同じ分野にライバルとして堂々と参入してきたことに対して、けじめ…というか少なくとも牽制はするべきだと思っての行動だった。 「修也さ、何だか最近…疲れてるよね」 ソファーで報告書類を読む俺を、背凭れの後ろに立ち吹雪がふわりと抱きしめる。 「…そうか?……じゃあ癒してくれるか?」 俺は資料をテーブルに捨て置いて、吹雪を引き寄せて口づけた。 「…ぁ///だ…め……」 愛撫を深くしていきながら、吹雪を正面に回り込ませて膝の上で抱く。 「………ん……っ…ぁ…」 はだけたシャツの下の滑らかな白い胸に綺麗に飾られた小さな突起を舌で弄りながら下半身に手を伸ばすと、吹雪は「だ…め…っ///少し休まなくちゃ……」と…びくっと反応しながらも僅かに身を捩った。 聞く耳持たずにズボンに掛ける俺の手を、吹雪は強く振り払う。 「ホントに…っ、ダメだよ修也。少し…ちゃんと寝なくちゃ………」 昨日も僕が寝た後ベッドから抜け出して仕事をしてたでしょ?―――と膝の上に乗せられたままの体勢で吹雪が俺の頭を胸で抱き寄せ呟く。 「電話も………誰としてたの?」 「部下が………いるんだ、虎丸と言って、な…」 お前にも紹介するよ、と言うと寂しげに首を横に振る。 その儚げな表情さえ愛しくて首筋をキスで撫で上げながら「わかった…じゃあ寝るから………いいか?」と耳元で熱っぽく囁く。 ゙抱いでいいか、と訊かれたことは十分に伝わっているのだろう。 ……健気に睫毛を伏せて頷く吹雪に、俺はなだれこむように溺れていった。 |