Oh my little princes!

うーーーーん。


「どうしたの吹雪くん、浮かない顔だねぇ」

知らず知らずのうちに眉間にシワが寄り
頬杖をついて2つ向こうの長机を睨んでいる僕に、ヒロトくんが話しかけてくる。

FFI本戦の只中に怪我から復帰した僕が合流して三日目。
―――堪忍袋の緒が切れる寸前だった。


「ああ、あの二人ね……なんかウザいよね」

僕の視線の先を追って、ヒロトくんが全てを察したように肩で息をつく。

そう、僕のイライラの原因はあそこに並んで座ってるあの二人。

豪炎寺くんと…虎丸くんだ。


僕が怪我で離脱してる間にあんなに……さらに距離を縮めて……

彼の隣は―――
僕の居場所だと思ってたのにな。


豪炎寺くんは…エイリアとの戦いの終盤に颯爽と現れ、僕の心に真っ直ぐに踏み込んで来て……半ば強引に、でも確かな温もりで救いだしてくれた人だ。

あんなに近くに居てくれたのに………今は違うの?あの時はただの気紛れだったの?


「ねぇ、グラン…」

「っ…俺……基山だけど」

「あ、ごめん、エイリア戦のこと考えてたからつい…」

「くっ………(どうせ八つ当たりでしょ?)」

「あの小さいのジャマ…」

「言っとくけど君の方が背は小さいよ」



んもぅ…ムカつくなぁ―――――。



コン、コン、コン―――

その晩、僕は豪炎寺くんの部屋を訪ねた。


「…………吹雪」


豪炎寺くんは、不機嫌さ丸出しの僕に全く動じず部屋に迎え入れてくれる。


「コーヒーでも?」

「……砂糖とミルクたっぷりね」

「すまん、そういうのは無いな」


そう言って……緑茶が出てきた。


「………いただきます」

「ああ」

僕の不機嫌な声色に、気づいてくれてるのかも分からない。

ベッドに腰掛けてお茶を啜りながら……豪炎寺くんの方をちらっと窺うと

壁に作りつけてある勉強机の椅子をこちらに向けて足を組んで座り……目を細めて僕を見ている。


カッコいい///かっこよくて許してしまいそう……いやいやダメだっ。

ここで釘を差しとかないと、また二人のイチャイチャを見せつけられちゃうよ!



「ねぇ……ここには、誰か遊びに来たりするのかい?」

「いや……残念ながらそんな物好きはいない」

本当かなあ?………でもまあ、飲み物もブラックとお茶しかないみたいだし…ここは信じてあげようかな。あ、でも念のため……

「虎丸くんは?」

「アイツはああ見えて遠慮しいなんだ。勉強のジャマになるから…と来ないな」

むむっ………虎丸くんを褒めたなぁ……
しかも僕のことさりげなく『勉強』のジャマだって嫌味を言った?


「ごちそうさま」

お茶を飲み干して、近くのチェストにカップを置いた僕は、豪炎寺くんをキッと見詰めて語りかけた。

「あのさあ……君はちゃんと自覚してるの?」

「……自覚?」

「君が…一番近くに置くべきなのは誰?」

「………は?」


豪炎寺くんのキョトンとした表情に痺れを切らした僕はおもむろに立ち上がり、Tシャツを捲り上げて、まだ火傷のような痕がうっすら残るお腹を見せた。


「//////おい……」

「……僕を、こんなにしたのは誰?」

豪炎寺くんが頬を赤らめて目を逸らした反応に………手応えアリ…だとほくそ笑む。


「君は2か月前…僕にこの痕を残して、心にも……」


少し引き気味だった豪炎寺くんが―――『心』と聞いて慌ててバッと立ち上がった。



「吹雪?まさか心にも…傷を負ったのか?」

いきなり歩み寄ってきて僕の両肩を掴み真顔で訊いてくる彼。


僕は…首を横に振った。


「傷ついてないよ。心は……奪われちゃったんだ」

「は?」

「君に…………」


豪炎寺くんは僕を驚いたような表情で見つめていたが、やがてフッと微笑んで…僕のお腹の痕をあったかい手で撫でてくれる。


「あ////」

「すまないな」

「っ……傷痕は……治るからまだいいよ。でも心は……」

「……………」


彼は「冷えるぞ」と僕のシャツをそっと下ろして………そっと僕を抱き寄せる。


「悪いが………」

「………………」

「心を奪われたのは、お互い様だ……」


豪炎寺くんの唇が近づいてきて
僕の……初めての恋と………初めてのキスが……叶う?

…ドキドキしながら目を瞑ると、温かく乾いた感触が唇に押し付けられて

……僕の唇を味わうように数回なぞって…離れた。


「嫌われているのかと………思ってた」

初々しい…キスのあとで彼は言った。
ああ…君にとってもこれが初めてのキスだったらいいな。


それに…君、
こんなに優しい顔をするんだ………


「……君って案外鈍感なんだね」

僕…゙好き好きオーラ゙全開だったのに。


答えの代わりに、また……チュッと唇が重なる。


「俺と………つきあってくれるのか?」

「ん……大事にしてくれるならね……」

「………大事にするさ」


重ねるたびに甘さが増していくキス。

厳しくてストイックだった彼が、こんなに甘くて優しいなんて……驚きだ。




けど―――驚くのはまだ早かった。


「おはよう、吹雪」

翌朝ノックの音に目覚めてドアを開けると、そこにはもうすでにユニフォーム姿をバッチリ決めた彼が立っている。


「……おはよ…早いね」

「お前…寝坊なんだな」


朝の支度を手伝いながら「ユニフォームも畳んでないのか」と、コインランドリーから持ち帰ったままになっているカゴの中から靴下とかユニフォームを一つ一つ引っ張り出して、豪炎寺くんは半ば呆れ顔で言う。


「お前…今日から俺の部屋で暮らせよ。面倒見てやるから」

「え……いいの?」



そして、朝の食堂でも………
僕を座らせておいて二人分の食事を持ってきてくれるし、手洗いのハンカチも貸してくれるし。

あはは///今まで僕水気を払ってジャージで拭いてたんだけど。


そして極めつけに―――周囲を含め、僕を一番驚かせたのは
練習の途中で綱海くんと交差して転倒した時のことだった。


「吹雪っ!!」


どこから見ていたんだろう。
熱を帯びた疾風の如く豪炎寺くんが飛んでくる。


「悪ィなぁ、膝小僧少しすりむいちまったかあ?」

僕に手を差しのべる綱海くんを突き飛ばさんばかりの勢いで割って入って来た彼は

なんと―――迷わず僕を―――
お姫様抱っこ!!!


周囲はどよめき、綱海くんは唖然。


豪炎寺くんはお構いなしに僕をベンチに優しく座らせると、引き気味のマネージャーから救急箱を取り上げて「吹雪、大丈夫か。綺麗な足に傷でも残ったら…大変だ」

と手際よく手当てしてくれるその顔は、超真顔!


―――あの、周り……練習中断しちゃって…僕らに見入ってますけど。




「あ〜君たち、超ウザイ。吹雪くん……豪炎寺くんにヘンなスイッチ入れた罪は重いよ?」

「黙れヒロト、俺と吹雪がこうなのは運命だ。お前が慣れろ」



やがて、僕はメンバーから
゙姫゙と呼ばれるようになったのでした。






恋のやまいは、不治のやまい
Oh my princes!*完

HAPPY BIRTHDAY!2012
コラ友・咲木葉さんに捧げます

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